人口減少で温暖化対策は困難に


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」からの転載:2020年11月21日付)

 

 先日、ある国会議員が「東京一極集中を解消すれば、温室効果ガスは減る」と発言していた。地方選出の議員がそう思いたいのは理解できるが、実態はかなり異なる。

 都会に住んでいる人は、公共交通機関を利用することが多い。地方の過疎地に住んでいれば公共交通機関は少なく、しかも人口減少に従って廃止が進むので、買い物などの移動に車を利用するしかない。都市部との比較では、省エネ効果が悪く、古い大きな家屋も多くなる。1人当たりのCO2排出量は、都市部より多いはずだ。

 米国では州ごと、分野ごとのCO2排出量のデータが公表されている。全米平均の運輸部門からのCO2排出量は、1人当たり5.9tだが、ニューヨーク州は3.8t。広大なワイオミング州の人口は全米で最も低い49万人だが、排出量は全米2位13.4tもある。米国で人口密度が最も少ないアラスカ州が全米1位の15.7tだ。当然、人口密度が運輸部門の1人当たり排出量に影響する。

 日本の多くの地方が温室効果ガス削減に取り組むと宣言しているが、人口減少が進む中で1人当たりの排出量は自然と増えていく。その対策は極めてやっかいだ。公共交通機関の維持が困難な以上、車を電動化、あるいは燃料電池にするしかない。人口が減少する地域で充電あるいは水素ステーションを整備できるのだろうか。家屋のエネルギー効率改善は可能だろうか。

 一極集中が続いている東京の人口も2030年頃からは減少に転じるとの予測だが、地方では人口減少が進めば、人はその地域の中心都市に集まり始める。通常は県庁所在地に集まるが、必ずしもそうとは限らない。九州内では比較的短時間で移動が可能な福岡市に人は集まる。東京が人口減少に転じる30年以降も、福岡市の人口は40年前後まで増えるとの予測だ。

 これからエネルギー消費と温暖化の観点から考えるべきことは、人口減少が進む地方で中心となる都市とその周辺部を、コスト上昇を避けつつ開発、整備する政策だ。