再エネ導入が停電を引き起こしたカリフォルニア州

バランスがとれた電源開発が必要不可欠


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 日本では大きな報道はなかったが、カリフォルニア州では8月14日、15日の2日間輪番停電が実施された。発表を見る限り輪番停電実施の緊急事態宣言発出前に停電が開始されたようであり、対象になった需要家はいきなりの停電に驚いただろう。停電が発生した原因の一つとして、民主党ニューサム知事、カリフォルニア州の送電管理者(CAISO)は、州政府が温暖化対策、再エネ導入推進政策を進める過程で、石炭・天然ガス火力と原子力発電設備を閉鎖し、太陽光発電を中心とした再エネ設備で置き換えたことをあげている。今年の熱波により冷房需要が急増したが、熱波の影響は日暮れまで残るにもかかわらず、日没とともに太陽光発電量が急減したため停電が引き起こされた。
 民主党知事が進めた温暖化対策と再エネ政策が引き起こした停電として、トランプ大統領はじめ共和党が民主党のエネルギー政策を非難する材料として持ち出す事態になっている。停電の詳細と大統領選については、フジサンケイビジネスアイ紙の連載「山本隆三の快刀乱麻」に掲載されたので(9月10日掲載)、そちらをお読み戴ければと思う。ここではカリフォルニア州の温暖化対策・再エネ政策がなぜ停電を引き起こしたのか検証してみたい。

カリフォルニア州の温暖化対策と運輸・発電部門

 米国の大都市ではニューヨーク、シカゴ、ワシントンDCのように地下鉄などの公共交通機関が、ある程度整備されている街もあるが、ロサンジェルスは公共交通機関が相対的に少ない街だ。このため片側6車線の高速道路はよく渋滞している。米国人がロサンジェルスの高速道路だけは運転したくないと言っているのを聞いたことがあるほどだ。ロサンジェルスを筆頭に車の利用が多い州のためか、運輸部門からの二酸化炭素排出量の比率が極めて高い。
 全米の二酸化炭素排出量の多い州とその分野別排出量はの通りだ。カリフォルニア州の特徴は運輸部門からの排出量が多く、その比率が高いことだ。全米平均36.9%に対し60.2%、全米一の比率だ。このため、同州では自動車に対し厳しい排出規制が導入されている。さらに販売する乗用車に関しては各メーカに対し一定程度の電気自動車(EV)あるは燃料電池車を販売することを義務付けるクレジット制度を導入しており、比率は年々上昇することになっている。
 純電動(BEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、燃料電池(FCV)と稼働方式、航続距離により得られるクレジットが異なるが、2019年には販売台数の約3%を電気自動車などにすることが要求されていた。達成できない場合には超過達成の企業、具体的にはEV専業メーカのテスラだが、からクレジットを購入することで達成することが義務付けられている。2025年には販売台数の約8%をEVなどにする必要がある。

 カリフォルニア州は2030年に1990年比二酸化炭素排出量を40%削減することを法で定め、2045年に二酸化炭素の純排出量をゼロにする目標をブラウン前知事(民主党)が2018年に立てているが、運輸部門からの排出量削減のため電動化を進めても、電力部門の排出量がゼロにならない限り運輸部門の排出量はゼロにはならない。このため、カリフォルニア州政府は電力部門からの排出量も2045年にゼロにする目標を立てた。同州は2002年から電力会社に販売電力量における再生可能エネルギーの比率を義務付けるRPS(Renewable Portfolio Standard)法を導入しているが、その延長線の目標だ。

カリフォルニア州の再エネ導入目標と実績

 1998年から電力自由化を開始したカリフォルニア州では、2000年から2001年にかけ電力危機が発生した。州知事がクリスマスツリーの点灯を行うことができないほど電力供給が逼迫し、輪番停電が行われた。危機の原因の一つは新規参入したエンロンなどの発電事業者が卸価格高騰を狙い発電設備を意図的に休止したことだった。ピーク時には供給設備の2割近くが停止する状況になった。
 このため自由化は中断された。その後大口需要家向け小売りの部分自由化は行われたものの、PG&Eなど大手3電力の垂直統合が維持され、州公共事業委員会の規制下にある。大手3電力を中心とした州内の送電管理はCAISOが担う形になっている。州政府は、公共事業委員会、エネルギー委員会、大気資源局などを通し規制を行い、電力会社に対し再エネ導入、蓄電池導入などを義務付けている。
 2002年に導入されたRPS法では、3電力会社と公営電力会社に販売電力量中の再エネ電源比率を義務付けた。当初の目標は2017年20%であったが、その後何度か改定され現在は2020年までに33%、30年までに60%(大規模水力を除く)とされている。さらに、2045年までに非炭素電源100%とされている。同州の発電設備量の推移は図‐1に示されているが、太陽光と風力発電設備導入に伴い、天然ガス火力と原子力発電設備の閉鎖が行われた。大規模水力を除く再エネ設備からの発電量は、2019年32%を超えており、20年目標はほぼ達成されている。

 蓄電池の導入についても、3電力会社には導入が義務付けられている。3電力会社合わせ2020年までに132.5万kWの導入を決定し、24年までに設置を完了する必要がある。再エネ設備、蓄電池導入を進めるため、設備新設時のみならず既設電源の稼働についても公共事業委員会が決定を行ってきた。例えば2017年12月天然ガスプラントをピーク需要用に維持するPG&Eの申請を委員会は料金上昇を招くとして拒否し、蓄電池などで対処することを求め、PG&Eは蓄電池導入に切り替えた。一方、天然ガス火力など安定的な電源の削減により、州外からの電力輸入が減少する際には停電が発生する可能性があると、CAISOは数年前から指摘していた。

再エネ電源からの発電がなくなると停電が

 8月15日の停電発生日の電源別発電量の推移は図-2の通りだ。太陽光発電からの発電量が日没とともに落ちるが、それを補う州外からの電力輸入量は限られている。西部全体を熱波が襲い、他州も電力供給に余裕がなくなったからだ。カリフォルニア州の求めに応じ、北西部の電力会社は発電量を増やし、水力発電の管理を行っている開拓局も発電量を増やした。9月3日付のニューヨークタイムズ紙によると、CAISOは蓄電池を保有する事業所、家庭に対し電力供給の依頼までメールで行ったようだが、それでも供給力は不足した。

 今回の停電は当初翌週の水曜日まで1週間近く続くと予想されていたが、停電翌日の日曜日からは大規模な節電が行われ停電は避けられた。節電量は最大時約500万kWに達しているようだ(図-3)。今後の停電を避けるため、州水資源規制委員会は、環境問題から閉鎖が決まっていたピーク対応の計373万kWの4基の天然ガス火力のうち1基を21年末、3基を23年末まで運転することを承認した。

 自由化により停電を経験したため、規制により発電設備を整備しようとしたが、再エネ設備導入を急ぎすぎ停電を招いた。バランスを取った電源開発が大切なことを教える停電だった。