中国で進むごみ分別改革とプラスチック規制(第二部)

~ごみ分別の罰則付き義務化~


上智大学大学院地球環境学研究科 准教授

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1.上海市における分別義務化とその成果

 2017年3月、国家発展改革委員会と住宅都市建設部は、「生活ごみ分別制度実施計画」を公表し、北京市や上海市といった直轄市などの46重点都市において、2020年までに生活ごみの「強制分別」、つまりは分別の罰則付き義務化を先行的に実施することとした注1) 。これを受けて、昨年7月には上海市において生活ごみ管理条例が施行し、「強制分別」が実施されることになった注2) が、総人口が約2400万人、うち日本人は約4万人注3) とされるこの大都市において、「史上最も厳しい」と称される同条例が施行されたことは、国内外で注目を集めた。


写真)上海市のマンション内に設けられた分別回収ステーション。2019年に撮影。

 同条例は、生活ごみを「リサイクル資源」(缶、瓶、衣類、プラスチックなど)、「有害ごみ」(電池、蛍光灯など)、「湿ったごみ(湿ごみ)」(生ごみなど)、「乾いたごみ」(汚れた紙屑、おむつなど、その他のごみ)、の4種類に分別することとし、「決められた時間に決められた場所に」ごみを出すこととしている。そして最も注目されるのが罰則であり、本条例に違反した個人には最高200元(約3100円)、事業者には最高5万元(約78万円)の罰金を科すこととしている。また、ホテルなどは使い捨ての日用品を、フードデリバリーサービス業などは使い捨ての食器を、それぞれ進んで提供した場合、最高で5千元(約8万円)の罰金を科すこととしている注4)


(図)新民晩報、2019年

 同市政府の昨年11月の報告においては、施行から3カ月間において、回収したリサイクル資源は約5960トン/日、湿ったごみ(生ごみ)は約8710トン/日であり、2018年10月と比べると、それぞれ5.6倍と2倍と増加した。このほか、乾いたごみは14,830トン/日(同月比33%減)、有害ごみは1トン/日(同月比10倍以上)とされ、適正な分別に成果を挙げていることが強調された注5) 。中国政府によれば、生活ごみに占める生ごみの量は56%だとされており注6) 、これを焼却や埋め立て処分の対象から除くことで、ごみ減量に大きな効果をあげることが期待される。加えて、生ごみは水分を多く含んでおり、焼却の際に温度を下げることから、燃焼効率を低下させ、助燃材の投入を増やす必要が生ずる。これを分別し、資源化などの処理を別にすることは、助燃材も減らすことができるなど、大きな意義がある。


(写真) 上海市のマンション内に設置されているごみ箱。左から湿ったごみ、乾いたごみ、右はリサイクル資源。2020年に撮影。

 中国においてはごみの分別は、かねてより制度はあったが、実際に有効になされているとは言い難い状況であった。分別は教育活動などを通じて市民生活の中に着実に習慣づけていくことが重要であるが、それを根付かせるためには長い時間が必要となる。その点、分別習慣の度合いを急速に高めようとするならば、今回中国政府が打ち出しているような罰則付きの分別義務化は一つ有効な手段と言えるかもしれない。本条例に基づく処罰の件数は、2019年末までに5,546件に上っているとされる。うち事業者が5,085件、個人が461件とされ、さらに、全体の58.9%が分別をしなかったことによるものとされる注7) 。個別のごみを4つの分類に如何に振り分けるかについて、導入当初は混乱がみられたようであり、それが処罰の件数にも影響した可能性があるが、半年が経過した現在は市民も規制当局も経験を蓄積したものと思われ、今後、罰則件数や分別の精度についてどのような変化がみられるかが注目される。

2.上海市における課題

 もちろん課題は少なくない。上海市は「決められた時間に決められた場所に」ごみを出す方式をとっており(日本ではこれが通常なのではあるが)、「社区」と呼ばれる一定の地区毎に設けられる回収ステーションにおいて、決められた時間以外には投入できないという仕組みだが、これには「サラリーマンにとっては時間が合わない」、「足が悪い老人にとっては不便だ」といった批判があがったようだ。こうした不平に対しては、各地区の住民委員会が個別問題に対応し、例えば、老人世帯への各戸回収や、移動ステーションの増設、開放時間の延長などの対応をしたとされる注8)


(写真) 上海市の住宅地に設置されている「愛回収」と呼ばれるスマート分別設備。右の写真では、リサイクル資源の箱が満杯だという表示がされており、そのためか、箱の前にはごみが放置されている。2020年に撮影。

 また、回収ステーションには、ボランティア人員などが張り付き、住民に説明や指導をすることとされている。分別が良好なステーションには20~30人のボランティアが輪番で担当しているとされ、重要な役割を果たしていることが判る。しかし、ボランティアも楽ではない。1日2回、それぞれ2~3時間の開放時間における屋外作業であり、特に夏季は猛暑の中、過酷な労働環境である。ボランティアは退職した高齢者に頼るところが大きいが、業務が肉体的にきついため、募るのも容易ではないようだ。また、ボランティアが張り付いていると徹底されている分別も、彼らが居なくなり、監視がなくなると、分別が急に乱雑になるという事態が指摘されている。実際、開放時間を過ぎた後、ボランティアも居ない状況で、ステーションの地面にごみが放置されるなどするケースが報告されている注9)

 一昔前の中国ならば人件費の安さを背景に、人海戦術で分別監視の人員を確保するのみかもしれないが、現代中国はこういう場面でもIT技術が活躍する。「小黄狗環保科技有限公司」は、ITを活用したスマートごみ分別回収サービスを提供する企業の一つである。4種類のごみ毎に分けた投入口を設けた大きなロッカーのような設備を、各地区の回収拠点に設置し、投入しようとする住民は、スマートフォン上でアプリを起動し、画面上の認証コードを読み取り機にかざすなどした時のみ、投入口が開放するという仕組みである。これにより、計量をして相応のポイントを付与することが可能となり、利用者は貯めて換金などすることができることから、分別回収のインセンティブとなる。加えて、どの時間に誰が投入したのかが把握できることから、不適正投入の事案においても投入主体が特定しやすくなる。


(写真)上海市に設置されている「小黄狗」によるスマート分別設備。

 こうしたスマート設備は人気を呼び、既に中国全土の38都市の9,000地区における2,400万戸の世帯を対象に、サービスを提供しているとされる。一方、「小黄狗」社は現在破産手続き中であり、こうした人目を惹く取組も収益事業として運営するのは容易ではないことがうかがい知れる。ただし、破産整理の裁判所手続きは順調に進んでいるとされ、また同社は他に各戸回収サービスを全国展開することも計画しているところ、今後の動きが注目される注10)

3.北京市における義務化の導入と分別の進展状況

 以上、上海市における取組状況について述べたが、分別義務化は既に山東省青島市など、他の都市でも次々と実施されており、中国各地で「強制分別時代」に突入している。北京市においては本年5月1日から施行される予定であるが、同市の条例も、分類方法や罰則などは上海市のものとほぼ同様といってよい注11) 。その点、上海市での経験は北京市にとって大いに参考になるが、上述のとおり、不適正事案の確実な検挙、ボランティア人員の確保などの課題について、どのように対応するかが注目される。

写真)北京市内の住宅地に設置された従来型のごみ箱。2020年に撮影。

(写真)中国では路上に設置されているごみ箱は、「リサイクル資源(可回収物)」と「その他のごみ」の2分類となっているのが一般的である。2020年、北京市内にて撮影。

 また、北京市においては条例の施行に先駆けて、昨年夏から、「顔認証」によるスマートごみ分別設備が設置され始めている。これはスマートフォンのアプリを使い、設置されたカメラに顔を映して認証がされると投入口が開き、ごみを投入することができる。これにより、「小黄狗」と同様に、ポイントをためることができ、分別投入のインセンティブとなるほか、投入者が特定しやすくなるため、不適正投入の未然防止や捕捉も可能となる。また、違反者については、中国で浸透しつつある社会信用システムの個人信用スコアにも影響を与えるともいわれている。こうしたシステムの導入は個人の行動を規制し、適正分別を進めるためには効果を発揮するものの、監視社会の性格をより一層強めることにもなり、もろ刃の剣といえよう。また、「小黄狗」のような経営破綻を避け、持続可能な経営を行っていくことも大きな課題といえる。

写真)顔認証機能付きのスマート分別設備。2020年、北京市内にて撮影。

(写真)顔認証機能付きのスマート分別設備。左方のカメラにて顔認証をするとごみ箱が開く。2020年、北京市内にて撮影

 「顔認証」のスマートごみ分別設備が設置され始めている北京ではあるが、分別義務化の条例施行前だということもあってか、現時点で分別や適正なごみ出しが浸透しているかというと、そうではなさそうだ。以下の写真は、北京市内の住宅地内の回収ステーションにおいて、ごみ箱の前にプラスチックや紙、生ごみなどが乱雑に放置されている様子がみてとれ、こうした状況が条例施行によってどう変わるかが注目される。

 また、写真ではファーストフードのデリバリーとみられる袋も放置されており、デリバリーが急速に普及することにより、生活ごみの総量も増えて、ごみ箱も溢れ返ってしまうという状況も示唆している。そうした中でごみの減量のために政府が打ち出した、プラスチックの生産・使用に対する規制について、次回は解説する。


(写真)北京市内の回収ステーションの前にごみが置かれている様子。2020年、北京市内にて撮影。

注1)
中国政府ネット. “国务院办公厅关于转发国家发展改革委住房城乡建设部生活垃圾分类制度实施方案的通知” (2017)
http://www.gov.cn/zhengce/content/2017-03/30/content_5182124.htm
注2)
上海市人大常委. “《上海市生活垃圾管理条例》全文公布,7月起施行 旅馆不得主动提供客房一次性日用品” (2019)
http://www.spcsc.sh.cn/n1939/n1948/n1949/n2431/u1ai186702.html
注3)
外務省.「海外在留邦人数調査統計」 (2019)年
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000043.html
注4)
上観ニュース. “上海人注意了!今年7月1日起,个人如果混投垃圾最高罚200元” (2019)(上海人民代表大会ウエブ掲載)
http://www.spcsc.sh.cn/n1939/n1948/n1949/n2434/u1ai185178.html
注5)
上海人大常委. “市人大常委会听取和审议关于本市推进生活垃圾全程分类管理情况的报告”(2019)
http://www.spcsc.sh.cn/n1939/n5594/u1ai198803.html
注6)
人民ネット. “人民时评:分类,垃圾才能真正产生价值” (2017)
http://theory.people.com.cn/n1/2017/0407/c40531-29194914.html
注7)
経済参考報. “垃圾分类考验基层治理能力” (2020)
http://dz.jjckb.cn/www/pages/webpage2009/html/2020-01/09/content_60490.htm
注8)
経済参考報. 前掲注(15)
注9)
経済参考報. 前掲注(15)
注10)
新華ネット. “小黄狗破产重整方案获批 未来继续聚焦精细化运营” (2020)
http://www.xinhuanet.com/energy/2020-01/21/c_1125488254.htm
注11)
人民ネット. “北京市生活垃圾管理条例” (2019)
http://env.people.com.cn/n1/2019/1218/c1010-31511322.html