防衛施設におけるマイクロ原子炉の活用


環境政策アナリスト

印刷用ページ

「一般社団法人 日本原子力産業協会」からの転載:2018年11月13日付)

 米国エネルギー省(DOE)が9月13日に発表した、マイクロ原子炉の国防総省施設における活用に対する情報提供依頼に応じて、10月4日原子力エネルギー協会(NEI)は「米国国防総省におけるマイクロ原子炉の活用ロードマップ」を提出した。DOE のこの動きは 8 月 13 日に成立した国防権限法に基づくものである。国防権限法は国防総省とDOE国家核安全保障庁(NNSA)の支出に対しては今後議会の予算プロセスから切り離すことにしており、また一方DOEは議会に報告をすることが求められている。
 本ロードマップにおけるNEIの提案は以下のとおり。

2019 年末まで‐国防総省はマイクロ原子炉を設置する施設と立地のための必要事項を特定、設計・評価を実施、事業体と契約を調印
2022 年末まで‐DOE は高アッセイ低濃縮ウラン燃料を提供、輸送手段を確立する

 上記に合わせ国防総省は関連する規制上の課題についてデベロッパーおよび原子力規制委員会(NRC)と緊密な連携をとることとしている。国防総省もその主たる施設などにおいてエネルギーレジリエンス(強靭化)について一層の改善を図ることとしており、ひいては原子力発電によるエネルギーレジリエンスが政府セクターの脱炭素化に資するものとなると考えられている。

1. NEIのDOE情報提供依頼に対する対応

 DOEの提示した主要なポイントは以下のとおり。

「マイクロ原子炉」の定義を5万kWまでの原子炉とする。
米国の事業者だけがパイロットプログラムへの参加が考慮される。
原子炉開発についてはエネルギーレジリエンスに資する特長、燃料、運転・ライセンス、商業炉への道筋などの情報が必要。
期限は10月15日(実際は10月4日提出)

 これに基づき、NEIはジェネラルアトミックス、ニュースケール、オクロ、ウェスティングハウス、Xエナジーから情報を収集した。これらの会社は現在のところマイクロ原子炉を開発することが見込まれている企業である。本レポートによると、最初のマイクロ原子炉を5年から10年をかけて、7年目を参考値として国防総省の国内の敷地にて配置することとしている。具体的には以下のとおりである。国防総省の契約2019年央、ライセンス申請2019年‐2020年、NRC許認可手続き2021年‐2024年、最終設計・エンジニアリングについては同期間、事業者選択2020年‐2021年、製造・建設2021年‐2026年、運転開始2026年などである。
 本「ロードマップ」はNRCが建設、運転、廃炉に対してライセンスを発給するという前提としているが、同時に国防総省が所有して運転する場合についてはNRCのライセンスは不要であると判断している。NEIは、NNSAに所属し、現在では軍関係の廃炉を扱っている「陸軍原子炉室」または「海軍原子炉室」をNRCに代わるライセンス発給機関と想定している。これによってNRCの許認可プロセスに比べ、またより統合された規制により、早く発給される可能性がある。また事業者としては上記に加え、ホロスジェン、リードコールドニュークリアー、ニュージェン、スターコアニュークリア、ウレンコ、ウルトラセーフニュークリアがマイクロ原子炉の開発をする可能性も指摘している。いずれにせよマイクロ原子炉開発において国防総省は産業界およびNRCと緊密な関係をもつことになる。

2. 国防総省のマイクロ原子炉への関心

 国防総省は米国で最大のエネルギー消費者でもあり、またその活動の安全保障面での重要性に鑑み、その主たる設備におけるエネルギーレジリエンスの改善は課題であった。その対応のため国防総省は早くから小型モジュール炉あるいはマイクロ原子炉に関心を寄せていた。国防総省による「エネルギーレジリエンス」の定義は「防衛施設のミッションの確保に影響を与えるエネルギー供給危機に備え、復旧するための能力を有すること」としている。国防総省のエネルギーレジリエンスへの取り組みは長い。たとえば2013年12月、国防総省は「電力供給レジリエンスメモランダム」を発し、2012年ハリケーンサンディにみられる異常気象に提起された施設運営への危機などを取り上げている。本メモランダムは当時のジョンコンガー国防総省次官補によって作成され、「外部電力供給が停止している状況の中で国防総省ミッションを完遂に利用可能かつ信頼性のある電力品質を確保するため必要なプランおよび能力を電力レジリエンスと定義しうる」と述べている。国防総省は他にDOEとも協力をし、2016年サンディア国立研究所に「空軍指令施設上空および近傍における小型モジュール炉使用持続性評価」というレポートを提出させている。ここで小型モジュール炉をエネルギーレジリエンスのために実行可能なオプションであるとしており、DOEおよび国防総省による小型モジュール炉開発オプションを共同で検討するきっかけとなった。また、DOE、廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)、国立研究所間で契約を締結することを求めている。2018年1月になってDOEは国家安全保障上の懸念としての国防総省におけるエネルギーレジリエンスに対する小型モジュール炉の潜在的貢献について報告書を発表した。

3. 国防権限法におけるマイクロ原子炉研究

 2018年8月トランプ大統領は2019年度国防権限法に署名をし、国防予算を通常の予算プロセスから切り離すことを可能にした。またその代わりDOEは2019年国防権限法通過後12ヶ月以内に議会へ報告を提出することになっている。提出先は上下両院の軍事委員会、下院エネルギー商業委員会、上院エネルギー資源委員会であり、DOE長官は必要に応じ国防総省、NRC、連邦政府調達局と協議をすることになっている。報告書には以下を盛り込むことになっている。マイクロ原子炉立地、エネルギーレジリエンスを提供する他の原子力技術の評価、契約関係に入る可能性のあるステークホルダーの調査、経済メカニズムを含む長期契約に入るオプション、エネルギーレジリエンスを提供するためのマイクロ原子炉要求事項、パイロットプログラムコスト評価、パイロットプログラムの里程標スケジュール、DOE・国防総省の立地・建設・運転に関する既存の権限についての分析、また本件権限に関する制度上の変更が必要な場合その改善勧告、などである。またマイクロ原子炉の定義は5万kWを超えないこととしている。法律上は動力法上NRCのライセンスを必要とするとしているものの、NEIのレポートでは同じく動力法で国防総省は電力施設を運転する権限を有する旨を引用している。

4. 議会における小型モジュール炉への予算

 DOEの2019年度小型モジュール炉予算は、政府からの要求は1億6300万ドルに過ぎなかったにも係らず、2018年度2億3700万ドルから3億2350万ドルに増加した。トランプ政権は研究開発への予算に対しては冷淡でその必要性について耳を貸そうとしない。したがって議会はDOEからのロビーイングを受けてエネルギー安全保障に関する予算は厚めにつけるべく動いてきたようだ。結果としてマイクロ原子炉に対する予算についても、DOE、ニュースケール、原子力業界からのロビーイングにより議会は全面的な支持を与えた。その内容は、DOEの設計・ライセンスに関するニュースケールやTVAへの支援を含む新型小型モジュール炉研究開発へ1億ドル、国防権限法に基づく安全保障上の需要施設に対するエネルギーレジリエンスのためのマイクロ原子炉開発2000万ドル、高濃縮ウランおよび高アッセイ低濃縮ウラン燃料テストに対して2000万ドルなどとなっている。

 以上のように、国防権限法制定によるマイクロ原子炉開発はDOEおよび国防総省に契約を締結させることとなり、ひとつまたは複数のマイクロ原子炉開発の支援となり、小型モジュール炉開発に一層の拍車がかかるものとみられる。NEIのみならず業界では「業界全体に対する大きな前進」(シンクタンク「サードウェイ」)などと評し、これを歓迎する声は多い。先のレポートにもあるが、こうした契約締結の流れはサプライチェーン開発の推進により将来の小型モジュール炉の経済性改善を通じた他の分野への適用も加速するものとみられている。

出典:
国際技術貿易アソシエイツ
タウシャーインターナショナル
8月14日付けモーニングコンサルト