瑞浪超深地層研究所・地下500mの世界を体験(1)

~「地層処分を考える」フィールドワーク~


国際環境経済研究所主席研究員

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 これまで、「地層処分って何?(1)」で地層処分についてのあらましを、「地層処分って何?(2)」で、関西学院大学の野波寛教授による「誰がなぜゲーム」により、国民一人ひとりが当事者として考えることの重要性を、それぞれ発信した。今回は、地層処分技術に関する研究を進める、日本原子力研究開発機構東濃地科学センターの瑞浪超深地層研究所(以下、同研究所)でのフィールドワークを紹介しよう。関西経済連合会地球環境・エネルギー委員会が実施する、若い世代や女性を対象としたアクティブラーニングの一環として、地層処分事業の実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)に協力いただき、同研究所の視察を実施し、その後専門家とのテーブル対話を含めたグループワークを行った。

(ⅰ) 瑞浪超深地層研究所の概要

 岐阜県瑞浪市にある同研究所は、中央自動車道の瑞浪ICより車で約3分、JR東海中央本線の瑞浪駅より車で約5分の場所に位置する(新幹線利用で東京から約3時間、大阪から約2時間)。岐阜県南東部のこのエリアは「東濃地域」と言われる、山に囲まれた緑豊かな地域で、木曽川や土岐川から形成されたなだらかな盆地が数多くあり、1,300年以上の歴史を持つ美濃焼など陶磁器の産地として知られ、日本で最も多くのウランが地下に賦存すると言われている。
 同研究所では、地下深度500mに及ぶ研究坑道を掘削し、主に結晶質岩(花崗岩)を対象とした研究を行っている。本研究の実施にあたっては、地元自治体と協定を締結し、放射性廃棄物を持ち込まないことや、将来にわたって研究所を処分場とはしないこと、地層科学研究の終了後は瑞浪市から借りている研究所用地を市に返還すること等を約束している。
 同研究所は、2003年から研究坑道の掘削工事を開始し、2014年に深度500mの研究坑道が完成した。ここでは、深度500mで地質環境を研究できる日本唯一の研究施設として、国内外の大学や研究機関に 研究坑道を広く開放、共同研究を実施するとともに、地層処分に関する国民との相互理解の場としての役割も担っている。

図1 瑞浪超深地層研究所研究坑道(出所:東濃地科学センター資料)

図1 瑞浪超深地層研究所研究坑道
(出所:東濃地科学センター資料)

 日本には、結晶質岩、堆積岩の大きく2つの岩種が分布しており、最終処分場が決まっていない状況においては、この2つの岩種の特徴を踏まえた分析が必要となる。そこで、北海道の幌延深地層研究センターでは堆積岩を対象とした研究を、瑞浪超深地層研究所では結晶質岩(花崗岩)を対象とした研究を、それぞれ進めている。研究所周辺の花崗岩は、およそ7,000万年前に、マグマが地下深部でゆっくり冷えて固まってできた岩石である。花崗岩は大きい結晶で構成され、耐久性が高い。「御影石」と言われ、建築材として広く用いられており、国会議事堂の外壁などにも使われている。
 花崗岩は、非常に多くの割れ目を包含し、この割れ目が地下水の通路となっており、割れ目の構造、分布、透水性を研究することは、非常に重要な課題となっている。深度300mでは低角度の割れ目が多いことに対し、深度500mでは割れ目密度が少ないというように、深度や場所等によって割れ目の角度や密度が異なる。
 地下水の水圧・水質のモニタリングも実施している。深度500mでは割れ目密度が低く、地下水が還元性(還元性の地下水中では金属が腐食し難く、物質が溶け難くなる)を示すなど、地下深部に期待される特徴を備えており、今後も深度500mでの研究を続けることとしている。
 超深地層研究計画では、計画全体を「地表からの調査予測研究(第1段階)」、「研究坑道の掘削を伴う研究(第2段階)」、「研究坑道を利用した研究(第3段階)」に区分しており、現在は第3段階の研究が進められており、研究坑道の見学を通じて概要を知ることが出来る。

(ⅱ) 研究坑道の見学 ~地下500mの世界~

 見学者は、つなぎ服を着て、ヘルメット、反射ベスト、軍手および安全長靴を身につけ、坑内PHSを携行し、安全装備を確認したうえで入坑する。キブルと言われる専用の10人乗りの工事用エレベーターに乗り、約5分ほどかけて地下深部へ降りる。その後、通常のビル8階分に相当する、92段のらせん階段を降りる。気温は年間通じて約20℃超だが、外の空気を送り込んでいるため、その影響を受けることになり、また年間を通じて湿度が高く、体感温度は異なる。

図2 キブル内の様子

図2 キブル内の様子

図3 らせん階段

図3 らせん階段

次のページ:研究坑道の様子

 直径6.5mの立坑は暗く、物があるために狭く感じるが、横幅約4~5m、高さ約3~4.5mの研究坑道は、広く明るい空間という印象である。全体のレイアウトは、写真をご覧いただきたい。

図4 深度500mのレイアウト図

図4 深度500mのレイアウト図

図5 研究坑道の様子

図5 研究坑道の様子

 ここでは、地下施設の建設から閉鎖後までの地質環境の変化やその回復過程に関する研究が行われており、長期的な環境変化の理解を通じて、地層処分の長期安全性評価の信頼性の向上を目指している。
 同研究所の建設時には、研究坑道掘削により、坑道周辺の地下水位が百数十m低下し、これに伴い、深度400m付近まで浅部の地下水が引き込まれ、水質が変化した。今後は、坑道を一部埋め戻すことにより、低下した地下水位や水質が元の状態に戻るかを確認する予定である。研究坑道を歩きながら、研究のいくつかを紹介いただいた。

図6 研究の概要

図6 研究の概要

 研究坑道を歩きだすと、花崗岩がむき出しになった場所があり、割れ目から水が出ているのが分かる。この花崗岩は、いつできたのだろうか。なんと、約7,000万年前(ティラノザウルスなどが生きていた時代)に地下約5~7kmに貫入、定置形成したものとされる。花崗岩のような硬い岩石でできている岩盤内では、岩盤中の割れ目が地下水の通り道になっている。地下深部での地下水の流れは遅く、ミネラルが豊富なので、鉱物(結晶)が割れ目内に形成されて、地下水の通り道が徐々に塞がる、いわば自己治癒能力を持っている。なお深度300mの研究坑道では、観察した2,000本の割れ目のうち、1割弱の割れ目にしか地下水が流れていなかったことが判明した。

図7 研究坑道の花崗岩

図7 研究坑道の花崗岩

 また、地震の揺れの計測では、震源からの距離によらず、地震の揺れは、地下に向かうに従い小さくなり、深度300mで地表の1/3程度、深度500mで1/4程度であることが明らかになった。
 大規模地下施設の建設により変化した地質環境について、坑道閉鎖後の環境回復能力を調査することを目的として、再冠水試験を実施している。この再冠水試験では、研究アクセス北坑道の先端にある約46mの冠水坑道(図4「深度500mのレイアウト図」参照)において、止水壁を設置して地下水による坑道内冠水と排水を繰り返し行い、坑道内冠水に伴う坑道周辺における水質や水圧の変化を調査する。具体的には、次のような観点から現象を観察する。

割れ目が存在する不均質な環境で、水圧はどのように回復するのか
坑道に閉じ込められた酸化的地下水は、還元状態になるのか
地下水が滞留する状態でセメント材料により岩盤中の水質はどうなるのか
水圧が回復することで、周辺岩盤の力学的緩みはどうなるのか

 こうしたことを確認しつつ、坑道閉鎖時の周辺岩盤の力学・水理・化学環境変化の観測に必要な調査解析技術の開発を目指している。

図8 止水壁

図8 止水壁

 2016年1月8日に注水を開始し、1月25日に坑道内が冠水。観測の結果、数十mの長さの坑道を閉鎖した場合、坑道から十数メートルの範囲の水圧回復には、数週間かかることが判明した。また、水圧の大きさを示すものとして、発泡スチロール製の「モグラ博士」(図9参照)が展示されていた。写真右の小さな方は、もともと写真左のものと同じ大きさであったが、冠水坑道内に置いておいた結果、水圧の上昇注1)によって大きさが70%程度に小さくなった注2)。その一方で、重さは1.8倍になった。

図9 モグラ博士の重さ比較(左:地下水圧作用前、右:地下水圧作用後)

図9 モグラ博士の重さ比較(左:地下水圧作用前、右:地下水圧作用後)

 視察全体を通じて最も印象的であったのは、地上との時間軸の違いである。色々な場所で地下水中の放射性炭素(14C)の量を計測し、地下水の年代と流れる速さを推定することで、地下深部の地下水の流れが非常に遅いことが確認された。深度500mには、氷河期に降った雪や雨に由来する地下水が、数万年を要して浸透したとみられている。地下深くで、遥か彼方の歴史を遡り、将来の長期的な安全性評価の信頼度を高めるべく、一つ一つ丁寧に、着実に、研究が進められているとの印象を受けた注3)
 参加者からは、「地下500mの環境下で、地下水や地盤等について、慎重に研究を重ねていると感じた」、「地層処分がより喫緊で、現実的な課題であると認識できた」といった声があがった。

注1)
約1.6mpa、水深約160mの水圧に相当。
注2)
水圧は、水中で水の重さによって生じた圧力のことで、水深が深くなるにつれて大きくなる、水に潜ると体が水に押される感覚のこと。地上で大気から受ける大気圧と比較すると、約16倍の力になる。
注3)
東濃地科学センターの更なる情報については、こちらを参照されたい。
https://www.jaea.go.jp/04/tono/

次回:瑞浪超深地層研究所・地下500mの世界を体験(2)~「地層処分を考える」フィールドワーク~ へ続く