瑞浪超深地層研究所・地下500mの世界を体験(1)

~「地層処分を考える」フィールドワーク~


国際環境経済研究所主席研究員

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 直径6.5mの立坑は暗く、物があるために狭く感じるが、横幅約4~5m、高さ約3~4.5mの研究坑道は、広く明るい空間という印象である。全体のレイアウトは、写真をご覧いただきたい。

図4 深度500mのレイアウト図

図4 深度500mのレイアウト図

図5 研究坑道の様子

図5 研究坑道の様子

 ここでは、地下施設の建設から閉鎖後までの地質環境の変化やその回復過程に関する研究が行われており、長期的な環境変化の理解を通じて、地層処分の長期安全性評価の信頼性の向上を目指している。
 同研究所の建設時には、研究坑道掘削により、坑道周辺の地下水位が百数十m低下し、これに伴い、深度400m付近まで浅部の地下水が引き込まれ、水質が変化した。今後は、坑道を一部埋め戻すことにより、低下した地下水位や水質が元の状態に戻るかを確認する予定である。研究坑道を歩きながら、研究のいくつかを紹介いただいた。

図6 研究の概要

図6 研究の概要

 研究坑道を歩きだすと、花崗岩がむき出しになった場所があり、割れ目から水が出ているのが分かる。この花崗岩は、いつできたのだろうか。なんと、約7,000万年前(ティラノザウルスなどが生きていた時代)に地下約5~7kmに貫入、定置形成したものとされる。花崗岩のような硬い岩石でできている岩盤内では、岩盤中の割れ目が地下水の通り道になっている。地下深部での地下水の流れは遅く、ミネラルが豊富なので、鉱物(結晶)が割れ目内に形成されて、地下水の通り道が徐々に塞がる、いわば自己治癒能力を持っている。なお深度300mの研究坑道では、観察した2,000本の割れ目のうち、1割弱の割れ目にしか地下水が流れていなかったことが判明した。

図7 研究坑道の花崗岩

図7 研究坑道の花崗岩

 また、地震の揺れの計測では、震源からの距離によらず、地震の揺れは、地下に向かうに従い小さくなり、深度300mで地表の1/3程度、深度500mで1/4程度であることが明らかになった。
 大規模地下施設の建設により変化した地質環境について、坑道閉鎖後の環境回復能力を調査することを目的として、再冠水試験を実施している。この再冠水試験では、研究アクセス北坑道の先端にある約46mの冠水坑道(図4「深度500mのレイアウト図」参照)において、止水壁を設置して地下水による坑道内冠水と排水を繰り返し行い、坑道内冠水に伴う坑道周辺における水質や水圧の変化を調査する。具体的には、次のような観点から現象を観察する。

割れ目が存在する不均質な環境で、水圧はどのように回復するのか
坑道に閉じ込められた酸化的地下水は、還元状態になるのか
地下水が滞留する状態でセメント材料により岩盤中の水質はどうなるのか
水圧が回復することで、周辺岩盤の力学的緩みはどうなるのか

 こうしたことを確認しつつ、坑道閉鎖時の周辺岩盤の力学・水理・化学環境変化の観測に必要な調査解析技術の開発を目指している。

図8 止水壁

図8 止水壁

 2016年1月8日に注水を開始し、1月25日に坑道内が冠水。観測の結果、数十mの長さの坑道を閉鎖した場合、坑道から十数メートルの範囲の水圧回復には、数週間かかることが判明した。また、水圧の大きさを示すものとして、発泡スチロール製の「モグラ博士」(図9参照)が展示されていた。写真右の小さな方は、もともと写真左のものと同じ大きさであったが、冠水坑道内に置いておいた結果、水圧の上昇注1)によって大きさが70%程度に小さくなった注2)。その一方で、重さは1.8倍になった。

図9 モグラ博士の重さ比較(左:地下水圧作用前、右:地下水圧作用後)

図9 モグラ博士の重さ比較(左:地下水圧作用前、右:地下水圧作用後)

 視察全体を通じて最も印象的であったのは、地上との時間軸の違いである。色々な場所で地下水中の放射性炭素(14C)の量を計測し、地下水の年代と流れる速さを推定することで、地下深部の地下水の流れが非常に遅いことが確認された。深度500mには、氷河期に降った雪や雨に由来する地下水が、数万年を要して浸透したとみられている。地下深くで、遥か彼方の歴史を遡り、将来の長期的な安全性評価の信頼度を高めるべく、一つ一つ丁寧に、着実に、研究が進められているとの印象を受けた注3)
 参加者からは、「地下500mの環境下で、地下水や地盤等について、慎重に研究を重ねていると感じた」、「地層処分がより喫緊で、現実的な課題であると認識できた」といった声があがった。

注1)
約1.6mpa、水深約160mの水圧に相当。
注2)
水圧は、水中で水の重さによって生じた圧力のことで、水深が深くなるにつれて大きくなる、水に潜ると体が水に押される感覚のこと。地上で大気から受ける大気圧と比較すると、約16倍の力になる。
注3)
東濃地科学センターの更なる情報については、こちらを参照されたい。
https://www.jaea.go.jp/04/tono/

次回:瑞浪超深地層研究所・地下500mの世界を体験(2)~「地層処分を考える」フィールドワーク~ へ続く