太陽光発電が急拡大する九州

系統安定へ九州電力の方策とは?


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2018年1月号からの転載)

 九州電力の中央給電指令所(福岡市、写真1)を訪ねる機会がありました。九電管内では、日本でもっとも太陽光発電の導入が進んでおり、さまざまな課題に直面しています。太陽光発電を最大限受け入れつつ、質が高く経済的な電力を安定供給することは、一筋縄ではいきません。現場での取り組みをうかがいました。

写真1 九州電力の中央給電指令所=福岡市

写真1 九州電力の中央給電指令所=福岡市

再エネの受け入れ状況

 九電管内で系統連系済みの太陽光は741万kW(2017年7月末現在、離島を除く)あり、直近5カ月は月平均10万kW程度のペースで増加しています(図1)。

図1 太陽光・風力の接続量の推移と申し込み状況 出所:九州電力

図1 太陽光・風力の接続量の推移と申し込み状況
出所:九州電力

 政府が15年にまとめた長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)では、2030年度の電源構成を再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%、石炭火力26%、LNG(液化天然ガス)火力27%、石油火力3%と見通しています。
 一方、九電管内の16年度の電源構成は、再エネ(一般水力含む)18%、原子力14%、石炭火力31%、LNG火力33%、石油火力3%。再エネは政府の目標に近づいています。
 ゴールデンウイーク中の2017年4月30日午後1時には、770万kWの電力需要に対し、太陽光による出力が565万kWとなり、太陽光が電力需要に占める割合が一時73%に達しました(図2)。連休中は工場などが稼働せず電力需要が落ちる一方、晴天で太陽光の出力が高まったためです。

図2 太陽光発電の割合が73%に達した際の需給実績 出所:九州電力

図2 太陽光発電の割合が73%に達した際の需給実績
出所:九州電力

 九電地域共生本部エネルギー広報グループ長の遠山茂樹氏はこう振り返ります。
 「太陽光の出力が最大となった午後1時には、すべての揚水発電所で水をくみ上げる揚水運転を行い、火力発電所は出力を下げて対応しました。太陽光のさらなる出力増への対応可能量はわずか90万kWという厳しい需給状況でしたが、周波数の大きな変動といった問題を起こすことなく乗り切りました」

中央給電指令所

 九州電力の中央給電指令所に案内していただきました。指令所は、九州全体の需給運用や系統運用などさまざまな業務を行う電力会社の中枢機関です。運用技術者の方から太陽光発電の制御について説明を受けました。
 指令所には、系統に接続されている太陽光の1割にあたる74万kW分(特別高圧)の発電量が伝送されてきますが、残り9割の発電量は伝送されてこないため、太陽光全体の発電量が把握できない状況です。指令所では15分単位で発電機の運転計画をつくり、質が高く経済的な電力の安定供給に努めていますが、太陽光発電の受入量増加に伴って運用がかなり難しくなっているといいます。

写真2 豊前蓄電池変電所=福岡県豊前市

写真2 豊前蓄電池変電所=福岡県豊前市

 こうした状況に対し、指令所ではさまざまな対策を実施しています。まず、太陽光の発電量を予測するのに使う全天日射量の測定地点(九州エリア内)を、従来の8カ所から34カ所に増やしました。また、気象予測についても、気象庁提供のものと合わせて、気象衛星から3時間先までの30分ごとの予測データを入手しています。これらを取り入れた新しいシステムの導入により、太陽光の発電電力推計値の精度を高めています。それでも予測値と実績値の誤差が大きくなることがあるそうです。
 さらに、太陽光発電の出力に応じて蓄電池の充放電を行い、需給バランス改善を図る試みも行っています。16年3月、世界最大級の大容量蓄電池システムを備えた豊前蓄電池変電所(福岡県豊前市、写真2)を新設し、現在、効率的な運用方法などの実証試験を実施しています。

出力制御の可能性

――太陽光・風力の系統接続量は今後も増加していきます。需給調整が厳しくなった場合、どう対応されますか?
 「需給状況が厳しくなった場合は、あらかじめ定められた優先給電ルールにより、九州エリア内すべての火力発電所の出力抑制、揚水発電所での昼間の揚水運転、九州と中国地方を結ぶ関門連系線(50万ボルト)を活用した他電力への送電など、運用上の対応を行います。これらの対策を行っても、供給力が電力需要を上回る場合には、最悪の場合、停電の可能性もあるため、やむを得ず、太陽光・風力の出力制御を実施することになります」(遠山氏)
 出力制御を極力回避する措置として、系統運用者は、①貯水池式・調整池式水力の昼間帯の発電回避、②揚水運転による再エネ余剰電力の吸収、③火力発電の抑制、④長周期広域周波数調整(連系線を活用した広域的な系統運用)―などを行うルールになっています。
 「連系線については電力広域的運営推進機関が利用ルールを定めることになっていますが、再エネ電気の受け入れ余地のある他地域へ送電できるよう、運用容量の最大限の活用を図りたい考えです。しかし、太陽光の接続可能量は、関門連系線を最大限考慮した場合でも803万kW(うち741万kWは接続済み)で、残りは60万kWほどです。早ければ17年度中にも需給が厳しくなり、出力制御を行う可能性があります」

――出力制御を実施する場合、事業者間の公平性はどう保つ?
 「出力制御の実施にあたっては、特別高圧と高圧以下の発電事業者に速やかな出力制御指令を出し、出力制御の回数・日数に事業者間で差が出ないようなシステムを構築しています」
 九電は、経済産業省の15年度補助事業「次世代双方向通信出力制御緊急実証事業」で、出力制御機能付きパワーコンディショニングシステム(PCS)の開発に取り組み、動作検証や緊急出力制御などの状況を想定した実証を行っています。実証結果をもとにした、系統を使った試験でも、系統電圧への影響を許容範囲内に収められることを確認しています。
 「再エネを最大限受け入れることができるよう、あらゆる取り組みを行っていきます。電力の安定供給とともに、地球温暖化対策を考慮した電源構成の実現は私たちの責務と考えています」
 急拡大する太陽光発電をいかに最大限受け入れ、需給運用していくのか。フロントランナーである九電の取り組みに注目していきたいと思います。