欧州文化交え“複雑な世界”考える

書評:加納 雄大 著「原子力外交-IAEAの街ウィーンからの視点」


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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電気新聞からの転載:2017年10月20日付)

 技術に善悪は無い。技術を活用して社会に貢献するか、悪用して社会に悪影響を与えるかは人間次第である。しかし、原子力という技術は、使い方次第であまりに大きな違いを生む。宇宙協力や軍縮などと並んで、原子力が外交のテーマとなっているのも、その特徴の故かもしれない。

 本書の著者加納雄大氏は今年7月まで、在ウィーン国際機関日本政府代表部公使として、国際原子力機関(IAEA)、原子力供給国グループ(NSG)、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)という複数の原子力関係機関を担当された。原子力外交という複雑な世界が、欧州の歴史や文化を交えて読みやすくまとめられている。

 本書の特徴は読者の関心の向きによって様々な読み方ができることだろう。温暖化政策からエネルギー問題に関心を持つようになった私のような立場からすれば、環境外交と原子力外交の共通点に関する分析はまさに膝を打つ思い。「ルールに基づく国際秩序」への人々の希求を背に議論が進められるが、ルールを守らせることは容易ではない。安全保障、エネルギー、経済という外部環境や要因に大きく左右されてしまうため、国際的なフォーラムによって世界が変わるというのも幻想であろうことを指摘している。加納公使のご尽力により、パリ協定成立直後に東京大学公共政策大学院の有馬純教授と共にウィーンのIAEAを訪問して、関係者と気候変動問題について議論させていただいたことにも触れられていたのは思わぬ喜びであった。

 その他、原子力の平和利用に関する歴史的経緯、安全に関する国際的な取り組み、原子力損害賠償制度に関する条約の流れ、そして福島事故に関する二つの報告書など、核・原子力を考えるのであれば常識として知っておくべきことがもれなく採り上げられている。

 「核の番人」といわれるIAEAの事務局長を現在務めているのは、日本の外務省で長く軍縮・不拡散・原子力畑を歩まれた天野之弥氏である。そんなところから原子力外交に関心を持ってもらうこともあるだろう。多くの方に核・原子力を考える機会を与えてくれる良著である。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず


原子力外交-IAEAの街ウィーンからの視点
著:加納 雄大(出版社:信山社)
ISBN-10: 4797234261
ISBN-13: 978-4797234268