2050年長期温暖化対策の解説
小谷 勝彦
国際環境経済研究所理事長
パリ協定において、我が国は「2030年度において、2013年度比26%削減」の中期目標を策定している。これはエネルギーの基本計画に加えて、産業・業務・運輸・家庭部門別の取り組みの積み上げがベースになっている。
一方、長期の温暖化対策「2050年までに80%削減」については、地球温暖化対策推進計画の中で「全ての主要国が参加する公平かつ実効性ある国際枠組みのもと、主要排出国がその能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長と両立させながら」という前提の上で、「目指すべき目標」としての位置づけになっている。
この長期の温暖化対策「2050年に80%削減」に対して、経済産業省の「長期地球温暖化対策プラットフォーム」(2017年4月とりまとめ)と環境省の「長期低炭素ビジョン小委員会」(2017年3月とりまとめ)が異なるアプローチをしている。
われわれ国際環境経済研究所では、塩津源さんが、「長期低排出発展戦略の争点」(その1~2)(2017年5月)で、環境省と経産省の主張の比較を行っている。ここでは、環境省が国内対策のみで実現するのに対して、経産省は国内のみならず日本の優れた省エネ技術を国際的にトランスファーすることで、世界全体の温暖化対策に貢献することを目指している。
http://ieei.or.jp/2017/05/expl170522/
また、直近の2017年8月からは、両省の委員会に参画している手塚宏之委員(日本鉄鋼連盟エネルギー技術委員長)が「環境省「「長期炭素ビジョン」解題」として、環境省の「長期低炭素ビジョン小委員会」における議論の紹介とご本人の問題提起について、国際環境経済研究所のHPで現在、掲載中である。
http://ieei.or.jp/2017/08/opinion170822/
また、我々の研究所以外でも、日経エネルギーNextにおいて、西村あさひ法律事務所・弁護士の佐藤長英さんが、経済産業省と環境省の報告を比較しながら、排出量取引や炭素税を導入すべきかどうか解説を加えている。(連載コラム 法律制度Q&A(2017/7/26))
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/031400074/072300004/
そのなかで、「温暖化防止自体は環境問題だが、温暖化効果ガスの削減措置のあり方は経済問題」であり、両省の審議会の合同開催により、「環境の保全」の観点のみで地球温暖化対策が独り歩きすることがないよう、一定の歯止めがかかっている」とコメントしている。
パリ協定は、京都議定書で採用されたトップダウン・アプローチではなく、各国がプレッジ・アンド・レビューで自らの経済状況に合わせて温暖化対策を行うものである。
そもそも「2050年に80%削減」は、2012年、東北大震災の後、原発が休止する状況の中でエネルギー基本計画の議論を踏まえることなく、環境省の「第4次環境基本計画」として閣議決定されたことが根拠となっている。
2030年目標は、2015年のパリ協定に基づく「プレッジ・アンド・レビュー」の精神で策定されているが、これに先立ち2012年に作られた「2050年長期目標」は「京都議定書のトップダウン・アプローチ」を彷彿とさせられ、違和感を覚える。