トランプ政権の環境エネルギー政策2017(5)

パリ協定離脱に対抗する州政府・市


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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3州が「米国気候連合」創設

 大統領選の頃からパリ協定から離脱することを宣言していたが、2017年6月1日、トランプ大統領は同協定からの離脱を正式表明した。これに対し、一部の州政府は反旗を翻し、クリーンエネルギー政策を活発化させる動きを見せている。ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ州知事、カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事、ワシントン州のジェイ・インスリー知事は、パリ協定の目標達成に取り組む州で構成する「米国気候連合」(United States Climate Alliance)の創設を2017年6月1日発表した。

 これら3州は、オバマ前政権が掲げた温室効果ガス排出量を2005年比26~28%削減目標を維持し、達成するための取組を進めていくことを表明した。3人の知事は、米国内のその他の州に対して、同連合への参加を促し、パリ協定の維持と積極的な気候変動対策の実施を呼びかけている。

 ニューヨーク州、カリフォルニア州、ワシントン州の3州合わせた人口は約6800万人、全米の5分の1ほどを占める。全米で排出される温室効果ガスの10%程度は3州から排出されているが、クリーンエネルギーの普及拡大などにより、温室効果ガスの排出削減を図る計画だ。クオモ知事は、トランプ大統領がパリ協定離脱を決めたことを「無謀だ(reckless)」と批判し、各州の知事が連携してパリ協定を順守していくべきだと力説している。

2045年再エネ100%目指す2州

 米国の再生可能エネルギーの普及施策は、主に州政府によって主導されている。米国では、州レベルで供給電力の一定割合以上を再エネ電力で賄うことを義務付ける「再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準(RPS)」制度が再エネの普及拡大の重要施策の一つで、現在29州とワシントンDCで導入されている。(図1

(図1)緑色の29州がRPS制度導入している。 出典:NCSL

(図1)緑色の29州がRPS制度導入している。 
出典:National Conference of State Legislatures(NCSL)

 米国内の気候変動対策のリーダー的存在のカリフォルニア州は、2045年までに再生可能エネルギー比率100%を目指す上院法案(SB100)を2017年5月30日に可決した。これまでカリフォルニア州は2030年までに再生可能エネルギー比率50%を目指していたが、前倒しして2026年までに50%、2030年までに60%に引き上げる計画である。

 一方、ニューヨーク州では、気候変動対策と雇用創出のために「クリーン・クライメート・キャリアーズ・イニシアティブ(Clean Climate Careers Initiative)」を発表した。同イニシアティブに基づき、再生可能エネルギープロジェクトに最大15億ドルを投じる計画だ。ニューヨーク州は、2030年までに同州で供給される電力の50%を再生可能エネルギーにする目標を掲げている。州内の太陽光発電システムの導入量を、2017年6月時点の約800MWから2018年末までに1.6GWに倍増させる計画もある。

 全米50州でもっとも電気代が高いハワイ州は、カリフォルニア州に先がけ、2045年までに再エネ比率を100%とする目標を掲げている。2013年時点で電源の7割を石油、14%を石炭に頼るハワイは、本土に比べて電気代が3倍ほど高く、化石燃料に頼らないエネルギーシステムの構築が緊縛の課題となっている。2008年から「ハワイ・クリーンエネルギー・イニシアティブ」のもと、風力発電(陸上・洋上)やメガソーラー、電気自動車(EV)などクリーンエネルギーを推進している。最近では各家庭に設置する太陽光発電システム、自律分散制御が可能なスマートインバーター、蓄電地をパッケージにして、同州政府が購入支援のための補助金を積極的に出している。

全米364の市がパリ協定順守を表明

 米国各地の市長で構成するMayors National Climate Action Agenda(MNCAA)は2017年3月、オバマ政権からの気候変動政策に継続して取り組むことを表明した。トランプ大統領のパリ協定離脱の正式表明後にMNCAAに参加表明した市長は増え続け、当初の6倍ほどになった。7月17日時点で全米359市の市長がパリ協定を順守し、気候変動対策に積極的に取り組むことを宣言している。

2017年7月17日時点 359市長がパリ協定順守を表明 出典)MNCAA

2017年7月17日時点 359市長がパリ協定順守を表明 
出典)MNCAAのブログより図表と写真引用

 かねてから再生可能エネルギー普及を推進してきた一部の州政府、そして地方自治体の首長らがパリ協定順守を表明し、気候変動対策を加速させる動きを活発化させている。トランプ大統領はパリ協定からの離脱を正式表明したが、地方からの削減策の積み上げにより、米国の当初の温室効果ガス排出削減目標が達成される可能性も出てきた。