自動運転は社会イノベーションのきっかけ!

その現状と将来展望


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2017年7月号からの転載)

 最近、「自動運転」に関するニュースやトピックが増えてきました。今回は、自動運転技術は今どのような状況で、社会はどう変わるのかを探ってみました。

自動運転の現状

 自動運転について、自動車ジャーナリストの清水和夫氏にうかがいました。清水氏は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の自動走行システム推進委員会メンバーです。

――開発の現状は?

ホンダが公開した自動運転技術の実験=昨年11 月、米カリフォルニア州

ホンダが公開した自動運転技術の実験=昨年11 月、米カリフォルニア州

 「日本では、安倍政権の3本の矢の1つ、民間投資を呼び起こす成長戦略の一環として、2014年5月にSIPが立ち上がりました。日本の成長につながる11の課題について5年計画で取り組むもので、『自動走行システム』もその1つです。時を同じくして、米国ではグーグルが人工知能(AI)を活用した自動運転の開発に乗り出し、メディアに注目されました。100年にわたり技術を積み上げてきた自動車メーカーは、いきなりAIに運転させることに飛びつくことはありませんでしたが、自動運転への注目度が高まるにつれ、本腰を入れるようになりました」
 「グーグルが先行した形ですが、自動車の設計ではさまざまな安全基準を遵守する必要があり、自動運転車を設計製造することは大変とグーグルも判断したようです。ハードウェアは自動車メーカーに任せ、要素技術として不可欠なセンサーやAI、ビッグデータ、クラウドなどの開発に注力するようになっています。IT企業と自動車メーカーが協働し、それぞれの得意分野の開発を進めるようになったことが昨年からの面白い変化です」

――注目される理由は

 「交通事故による死者は先進国だけでも年間10万人超で、全世界では同100万人ほどになります。事故原因の9割は脇見運転などのヒューマンエラー(人為的過誤)ですので、自動運転で事故を大幅に減らすことができると期待されています。日本では事故を減らす安全対策と高齢者対策(高齢ドライバーなど)が自動運転の大義ですが、米国ではそれらに加えて、移動の快適性も期待されています」
 自動運転の定義については、米SAEインターナショナルの分類(6段階、図1)が世界的に採用されています。レベル0(ドライバーのみ)、レベル1(運転支援あり)、レベル2(一部自動化)、レベル3(部分的自動化)、レベル4(条件付き自動化)、レベル5(完全自動化)の6段階です。レベル2までは自動運転というより高度な運転支援と理解すべきでしょう。

図3図1 自動運転の定義(レベル別)
出所:清水和夫氏作成
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今秋、高速道路で実証実験

 SIPでの「自動走行システム」の研究開発は産官学共同で進めています。2017年度の課題は、高齢者など交通制約者にやさしい公共バスシステムなどを確立し、事故や渋滞を抜本的に削減しながら、移動の利便性を飛躍的に向上させることです(2017年度予算は33.2億円)。
 今年3月から、内閣府沖縄担当部局との連携により、沖縄県南城市の公道で公共バスの実証実験が始まりました(図2)。車椅子や高齢者も乗り降りしやすいよう、センサー技術を使ってバス停にほぼ隙間なく正確に横付けする正着制御機能や、車線維持制御の安定性などを検証します。実証実験は2018年度までに3回程度行う予定です。
 今年9月には、自動車専用道路(首都高、東名・新東名高速道路、常磐自動車道の一部)の全長300kmで大規模な実証実験が実施されます。国内外の自動車メーカー、国内の部品メーカーや大学・研究機関が参加し、「ダイナミックマップ(3次元高精度デジタルマップ)」の情報収集や生成、配信の検証などを行う予定です(期間は2019年3月まで)。
 「最先端の専門家チームが集結し、オールジャパンで協調領域の技術開発を行っていきます。国土地理院の協力も得ながら、AIに画像データなどを覚えさせ、ダイナミックマップを生成・検証し、2018年には自動車メーカーに安く提供できるようにしたい。国際標準化(ISO)技術委員会に対するダイナミックマップ標準化の提案も進めていきます」(清水氏)

図2 公共バスの自動運転実証実験の検証内容

図2 公共バスの自動運転実証実験の検証内容
※沖縄県南城市で実施 出所:内閣府

自動運転は社会を変えるきっかけ

 トヨタとホンダは2020年をめどに高速道路での自動運転の実用化、日産は2018年に高速道路、2020年までに交差点を含む一般道での自動運転技術の導入を目指す計画を発表しています。

――実用化に向けた課題は?

 「安全対策と信頼性の醸成が課題です。人が運転責任から開放されることに不安を感じる人もいますので、社会的受容性も重要です。また、自動運転で事故が発生した場合、誰が責任を負うかも非常に難しい問題です。システムの責任だからとAIを刑務所に入れるのは難しい。責任のあり方については、自動走行システムの開発状況を見ながら、今後議論を深めていくことになります。法的責任問題は世界共通の課題ですが、英国で動きが見られます。日本とドイツが自動運転の技術開発を、米国はシリコンバレーのAI技術などを主導する中、英国は保険制度を含めた法律面で主導権を取りたいのだと思います」

――自動運転は社会を変える?
 「自動走行システムのCO2削減に関する評価は、SIPの中でも進められています。自動運転時代の最初は混とんとするかもしれませんが、電気自動車(EV)と親和性がありますので、セットで普及していくシナリオが考えられます。自動運転EVのシェアリングサービスが進めば、環境負荷は低減していきます。自動運転をフックとして都市デザインも変わり、街全体が変わっていくことも期待されます。さらに交通事故も減っていく。自動運転は、社会イノベーションを起こすきっかけと考えています」
 自動運転は未来をつくるツールと言えます。