国際電気自動車シンポで知ったクルマの新たな価値

移動手段の枠を越えて環境対策や新サービス創出


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(「月刊ビジネスアイ エネコ」2018年12月号からの転載)

 国際電気自動車シンポジウム・展示会とEV技術国際会議2018(EVS31&EVTec2018)が先日、神戸市の神戸コンベンションセンターで開催され、パネルセッションのファシリテーターを務めさせていただきました。シンポジウムを通して知った電気自動車(EV)の可能性について書きたいと思います。

EVS31でのパネルセッションの様子=神戸市の神戸コンベンションセンター

EVS31でのパネルセッションの様子=神戸市の神戸コンベンションセンター
(写真はEVS31 & EVTec2018提供)

各国でEV切り替えの動き

 2017年以降、クルマの電動化を進める動きが一気に加速しています。きっかけは同年7月、フランスのユロ前環境相が走行時に温室効果ガスを排出するガソリン・ディーゼル車の販売を40年までに終了すると発表し、英国のゴーブ環境相も40年までにガソリン・ディーゼル車の販売を禁止すると発表したことです。
 ドイツは一昨年10月、連邦議会が30年までにガソリン車の販売を禁止する決議案を採択しました。これは法律ではないため、法的拘束力はありません。メルケル独首相は昨年9月、現在主力のディーゼル車の改良とEVへの投資を並行して進めていく考えを示しました。
 中国は2019年から新エネルギー車(NEV)規制を導入し、生産・販売の一定割合をEVなどの新エネ車にすることを自動車メーカーに義務づけます。新エネ車にはEVのほか、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)などが含まれ、ハイブリッド車(HV)は対象から外れています。また、米国でも、カリフォルニア州など一部の州でZEV(ゼロエミッション車)規制を導入しています。
 電動化に向けた動きが加速している背景には、各国政府による環境規制の導入があります。
 国際エネルギー機関(IEA)のEVに関するレポート「GlobalEVOutlook2018」によると、電動車の普及を目指すイニシアティブ(EVI)に参加する15カ国のEV(PHV含む)販売台数は17年に年間100万台を超えました。前年から54%も伸びています。
 EV販売台数のトップは中国(約58万台)で、以下、米国(約20万台)、ノルウェー(約6万台)、ドイツ(約5万5000台)、日本(約5万4000台)の順です。中国は累計保有台数でも世界一(122万7770台)です。
 各国の自動車販売全体に占めるEVの割合は、2025年までにガソリン・ディーゼル車を販売禁止するノルウェーが39%と断トツで高く、中国2.2%、米国1.2%、日本1.0%という状況です。

日本もxEV戦略を打ち出す

 世界の主要市場でEVシフトが加速するなか、日本政府は世界で販売するすべての日本車を50年までに「xEV」にする目標を打ち出しました。xEVはEV、PHV、HV、FCVなどを指します。EVS31のパネルセッションでも、経済産業省からxEV戦略の説明がありました。

EVS31の展示会場

EVS31の展示会場

 同省からは、自動車産業を取り巻く大きな変化「CASE」について解説がありました。CASEは、「Connectivity(車のつながる化)」「Autonomous(車の自動化)」「Shared & Service(車のシェア・サービス化」「Electric(電動化)」の4つの頭文字をとったもの。クルマにIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の技術を取り込むとともに、電動化を進めることにより、自動車産業の構造が革新的に変わることを意味します。
 今年8月、政府は50年に向けた長期ゴールとして、①世界で供給する日本車は世界最高水準の環境性能を実現、②車1台あたりの温室効果ガス排出量を8割程度削減、③“Well to Wheel Zero Emission”にチャレンジ―することを発表しました。“Well to Wheel(井戸から車輪まで)”とは、クルマを動かす電気、水素、ガソリンなどを製造する過程からタイヤを動かすところまで、温室効果ガス排出ゼロ(ゼロエミッション)を目指すことを意味します。この取り組みを世界に発信して広め、世界の人たちにxEVが“選ばれる車”となる流れをつくりたい考えです。あわせてEVのインフラ整備も進める計画です。国内の公共充電設備は2万8834基(うち急速充電器は7327基)で、ガソリンスタンドの3万747カ所(17年度末)に迫る勢いです。公共充電設備の整備とともに、欧州のように家庭や職場での充電設備の設置が進むと、EV購入のモチベーションになりそうです。
 また、xEVは“動く蓄電池”として再生可能エネルギーと組み合わせ、電力システムの1要素として利用することが期待されます。

米テスラ社のEV「モデルX」

米テスラ社のEV「モデルX」

独BMWのEV

独BMWのEV

EVS31の会場前では試乗会も

EVS31の会場前では試乗会も

アムステルダムは2025年ゼロエミ目指す

 オランダの自動車販売全体に占めるEVのシェアは6%(17年)を占め、EV保有台数は11万9330台、公共充電設備は3万3431基となっています。欧州連合(EU)の目標「EV10台に公共充電設備1基」の目標を超えてインフラ整備が進んでいます。
 EVS31のパネルセッションでは、アムステルダム市のシャロン・ディクシュマ副市長がパネリストとして登壇し、25年までに市内のバスやトラックなどすべてを電動化し、市全体のゼロエミッション化を目指していると話しました。街中には400台以上のEVタクシーが走り、街の至るところに急速充電器が整備され、16年末に公共充電設備は2000基を超えました。電動の乗用車、タクシー、トラックなどの導入を計画している市内企業への助成施策も積極的に実施しています。
 同市は太陽光発電も推進しており、20年までに160MW、40年までに1000MWの導入目標を掲げています。太陽光発電とEVを組み入れたスマートグリッド(次世代電力網)を構築する実証研究も進めています。
 クルマが単なる移動手段という枠を越え、環境対策や新しいサービス提供など、さまざまな新しい価値を社会に創出しています。