低炭素社会の実現に向けた水素エネルギーについて(2)

-熱需要におけるCO2フリー水素による化石燃料代替-


東京電力ホールディングス(株)技術・環境戦略ユニット技術統括室 プロデューサー

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【5】海外政策から見る水素エネルギーによる熱需要での化石燃料代替

 日本国内では、「長期エネルギー需給見通し」(2015年7月)策定時にエネルギーミックスについて議論され、2030年に再生可能エネルギー比率を22~24%にすることを目標とした。しかし、これは電気に占める割合に過ぎない。現時点で最終エネルギー消費に占める電力の割合は25%であることから、エネルギー需要全体に占める割合は再生可能エネルギーの比率は6~7%(=22~24%×25%)にとどまる。したがって、再生可能エネルギー比率向上のためには「熱需要、運輸分野」への再生可能エネルギーの普及拡大がカギとなるのである。
 しかしながら、熱需要において現在利用されている再生可能エネルギーは、太陽熱・ヒートポンプ・温泉熱などの直接熱利用やバイオマスや黒液などの副生燃料など限定的である。
 これまで、日本の再生可能エネルギー普及政策は発電部門だけに偏ってきた。2012年に固定価格買い取り制度(FIT)が施行され、再生可能エネルギー発電設備の導入が飛躍的に進んだが、これらの急速な普及は課題も顕在化させた。そのひとつが先述の電力系統への負担の増加である。電力網の広い範囲に生ずる送電容量不足、電圧上昇問題、周波数調整力不足及び需給バランス・余剰電力の問題が生じた。このままでは電力系統安定化の費用が増大し、託送料金の上昇が懸念される。さらに、政府は「長期エネルギー需給見通し」の中で、再生可能エネルギー発電が電源構成に占める比率を2030年には現在の2倍以上に増やすことを示した。
 今後、更なる再生可能エネルギー発電の導入拡大には自然条件に左右される発電量の変動を吸収する技術が必要となる。すなわちエネルギー貯蔵技術である。エネルギー貯蔵技術の一つに蓄電池がある。蓄電池は電力をそのまま貯蔵する技術であり、再び電力で利用するものである。一方、水素の場合はP2Gで非化石燃料としての活用も見込むことができる。
 再生可能エネルギーの分野で先行的に取り組むEUに目を向けると、2001年に「再生可能電力指令」を発令し、電力に占める再生可能エネルギー比率の目標を2010年に21%とした。その後、2009年の「再生可能エネルギー推進指令」により、電気から「熱需要、運輸分野」へも取組みを広げ、最終エネルギー消費総量に占める再生可能エネルギーの割合を2020年に20%とすることを目標とした。そして2014年の「気候変動・エネルギー政策枠組」では、2030年に27%とする目標を掲げた。EUにおける2014年の実績では,再生可能エネルギー量が石油換算1億77百万トン、最終エネルギー消費総量に占める割合が15.3%となり,20%の目標に向け順調に推移している。導入実績の内訳をみると電気が41%に対し、熱需要が50%、運輸分野が9%を占めている(図8)。


図8

図8 EUにおける再エネ導入実績(2014年)

 ドイツでは、電力大手であるRWE社が2015年8月にドイツ西部にあるノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州のイッベンビューレン(Ibbenburen)に英ITM Power社製のP2Gシステムを導入したほか、2016年時点で20件以上のP2Gシステムが導入されている(図9)。

図9
図9 ドイツでのP2G実証
出典:「Power to Gas system solution. Opportunities, challenges and parameters on the way to marketability」ドイツエネルギー機構

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ITM Power社によるとP2Gシステムには以下のような特徴があるという。

  • 電力系統の増強抑制という観点から、P2Gシステムは風力発電所やPV所の余剰・不安定電力を電力系統に送電する前段で吸収するために発電所に併設して設置されている。
  • 風力・PVの一基・一モジュール当たりの発電出力が1000~2000kWであることから、P2Gシステムの入力値1500kW、水素製造能力300Nm3/hの設備が2016年時点で検討されている標準的なスペックである。
  • 水素製造能力300Nm3/h規模のP2Gは輸送用コンテナの内に収納することできるため、発電所にコンテナごと設置することで施工・管理・運営などが簡単になる。
  • 製造された水素は、近くに敷設された天然ガス供給ネットワーク(パイプラインもしくはガス配管)に送り込むことで水素貯蔵設備が不要となり、経済合理性も高まる。余剰の再生可能エネルギーはガス体エネルギーとして活用することが一般的である。
  • 経済性の観点では電力とガスが同時に製造できるうえに水素製造装置で水素の製造量を調整することで、デマンドレスポンスやアンシラリー、インバランスなど電力市場と連動した運用も可能である。これらを組み合わせることでインセンティブに頼らない自立的経営を目指した事業展開も検討している。

以上である。
 これまで、電力と燃料は別々の取組みが示されてきたが、電力から水素を作るとなると電力と燃料の垣根は取り払われ、「電気は燃料の原材料」という新しい概念が生まれてきたともいえるだろう。

次回:「二次エネルギーであるがゆえの課題」へ続く

本レポートは、筆者の個人的見解であり、所属組織の意見を代表するものではありません。