モーダルシフト


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 昨今、トラック運転手を中心に、宅配をする人手を確保できないために、宅急便事業がビジネスモデル自体を見直さざるを得ない状況に陥っているという報道記事を目にするようになっている。翌日配送があたりまえとなり、最近では即日配送まで行われるようになっているのは、事業者の競争の結果ではあるが、それを望む消費者が増えていることの反映でもあるだろう。ネット通販の拡大も背景にある。しかし、それが労働環境を劣化させていることは確かだし、配送がほとんどトラックに依存しているために、化石燃料を使う運送事業からのCO2排出を削減できないという課題ともなる。

 宅配という場合には、荷物の届け先への直輸送ということになるが、その荷物は遠距離を輸送されるものも多く、殆どがトラック輸送に依存している。高速道路を利用するものが多いのだが、ここでも運転手不足が大きな問題となっている。最近知ったことだが、それに対応するために国交省は三連装のトラック輸送を実現させようと検討しているらしい。当然のことながら、宅配だけではなく、産業用も含めた物流全体としてもトラックに依存する比率は高い。しかも、幹線道路の輸送容量が限度に近づいているところも増えており、輸送の遅延も頻発するようになっている。

 この状況を解決するために、トラックによる輸送から鉄道による貨物輸送へのモーダルシフトを推進すべき時代に入っているのではないかと以前から考えていたのだが、つい最近、その前触れになると思える事例が報じられた。佐川急便と新潟県の北越急行が、北越急行「ほくほく線」の六日町駅~うらがわら駅間(46.8km)で、両駅を午後9時頃に出発する2両編成の旅客列車2本を利用した貨客混載輸送によって、トラックに代わる小口宅配貨物の拠点間輸送を4月18日から本格的に開始したと発表したのだ。電車は平日にのみ運行されるが、貨物の積載については念入りな工夫がなされている。このプロジェクトは、今年3月に国土交通省より改正物流総合効率化法に基づく総合効率化計画として認定されているが、佐川急便は、自社トラックに天然ガス自動車を採用しているように(2006年には、天然ガス自動車の導入累計3,000台を突破)、環境への配慮をしている企業だ。

出典:佐川急便ニュースリリース

 この方式は、田舎の路線だから可能なのだという論もあるかもしれない。だが、乗客混雑の程度と積載量のバランスさえうまくとれれば、都市近郊の主要な電車路線でも実施出来るのではないだろうか。さらには、これを拡大して、鉄道による輸送として全国ネットワークを持っているJR貨物の利用も実現できるはずだ。日本のどの路線を見ても、日本の鉄道の特徴とも言える正確な運行予定が狂うことは少ないから、輸送計画も建てやすいはずだ。

 エネルギー白書2016によると、2014年度に於いて、自家用車も含めた運輸部門での最終エネルギー消費は、全体の23.1%を占めているが、その内訳で見ると、乗用車やバスなどの旅客部門が60.2%、貨物部門が39.8%となっている。旅客部門で見ると、その8割を超えるものが自家用車によって消費されているが、貨物部門ではトラックが90%近くを占め、次いで海運、航空があり、鉄道によるものはごく微々たるものになっていることが分かる。従って、上に述べたような形でのモーダルシフトが広範に行われれば、エネルギー消費を抑制する効果は大きいはずだ。

 このモーダルシフトの実現には、宅配を含めた運送業界と鉄道事業者の緻密な協力が必要であるし、また一方では、宅急便は発送の翌日に届くのが当然だとする消費者意識を変えるような制度設計も必要だろう。だが、それへ向けた努力が大きな成果を収めることを期待している。