熱利用とエネルギー効率


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 化石燃料を利用する場合、その利用目的にどれほどの量を使えるかが、経済性、地球温暖化抑制などへの対応から見て重要となる。しかし、目的達成に貢献できずに廃熱として放散されてしまう部分があるのは不可避で、その廃熱の量をできるだけ少なくする努力が続けられている。

 その典型の一つがコージェネレーション(CHP)だろう。燃料をエンジン・タービン、あるいは燃料電池に投入して発電機を駆動した場合、発電効率は50%程度がせいぜいであるが、そこから出るまだ高温の排ガスを熱交換してスチームや温水を作り出すことで、燃料の利用効率を80%以上と大きく向上させている。しかし、電力需要に対応した熱の需要が小さければ、熱を捨てるか、発電規模を下げて需給バランスをとらざるを得なくなる。また、需給バランスがとれていても、熱として捨てられる部分が残るのは避けられない。

 大規模発電所で使われている火力発電の場合には、送電等のロスを考えると、最終需要地到達時点での、その燃料の総合利用効率は平均で40%程度であるが、ガスタービンで発電した後の高温排ガスで高圧水蒸気を発生させて、汽力発電を行うことで利用効率を上げている最新鋭のコンバインドサイクルでも、その全体効率はせいぜい60%ほどであり、まだ高温の排ガスが未利用のまま捨てられてしまっている。発電所からの廃熱を回収して、周辺地域へ導管で温水として地域熱供給をする事例が欧州で多く見られるが、家屋や建物全体を暖房するのが通例だから可能なのであって、気候条件、生活様式が異なる日本ではほとんど行われてない。

 発電に限らず、工場プロセスなどから出る廃熱の量が多い場合、それを利用しようとする時、低温であれ高温であれ、その熱が発生する場所で利用できるのであれば、技術と経済性の問題がなければ利用は進むだろう。しかし、発生現場で利用できなければ、何らかの方策で離れた場所に移動させて使わなければならない。何かの熱媒体に吸収させて、その媒体を需要がある離れた場所に移動させなければならない。この方式を実用化しようとする試みはかなり以前から続けられてはいる。しかし、熱を吸収する量が多く、運送に適し、熱損失が少なく、しかもコストの低いという条件が揃った熱媒体は開発されていなかった。

 だが最近、新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)が、この要件を満たす素材を開発できそうだとする発表を二つ行っている。その一つは、NEDOが開発した100℃以下の低温廃熱を利用可能な蓄熱材「ハスクレイ」をベースに、さらに高性能化した蓄熱材の量産製造技術を協力企業4社と共同で確立し、従来型より2倍以上の蓄熱を可能とする可搬コンパクト型蓄熱システムを開発し、トラックなどで効率的に輸送することができるようになったというものだ。ある自動車メーカーのプラントの間を結ぶ熱輸送を実証しようとしている。

 もう一つは、NEDOと未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)の組合員である樹脂メーカーが、高性能蓄熱材製造時に発生する未反応原料の回収・再使用技術を開発し、実機にこの開発技術を適用することで、蓄熱材の製造コストを削減する量産製造技術を確立したというものである。55~80℃の低温では利用が困難だった市販合成ゼオライトと同等の価格で高性能蓄熱材を提供できるようになり、未利用熱の有効活用へさらなる期待がかかっている、というもの。

一つ目の発表記事の紹介写真 出典:NEDOのメールニュース2017年3月13日号

一つ目の発表記事の紹介写真
出典:NEDOのメールニュース2017年3月13日号

 近い将来、いろいろなプロセスからの廃熱を回収してトラックやローリーで配達するビジネスが普及するかも知れないと期待している。

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