トランプ次期大統領政権のエネルギー・環境政策の見通しについて
前田 一郎
環境政策アナリスト
(「一般社団法人 日本原子力産業協会」からの転載:2017年1月12日付)
米国トランプ次期大統領はエネルギー・環境関係閣僚の人選をほぼ終え、エネルギー省長官にリック・ペリー氏(元テキサス州知事)、内務省長官にライアン・ジンキ下院議員(モンタナ州)、環境保護庁長官にスコット・プルイット氏(オクラホマ州司法長官)、国務省長官にレックス・ティラーソン氏(前エクソンモービル会長兼CEO) を起用することに決めた。ペリー氏はかつてエネルギー省の解散を主張しており、石油・ガス政策に焦点を置く、ジンキ氏はオバマ政権のメタン規制に反対をし、キーストーンXLパイプライン推進者、ティラーソン氏は当然トランプ次期大統領の石油・ガス政策を外交に展開することが期待されている。今回はこれらの中で特にエネルギー省に関する今後の見通しについてについて報告する。
1.エネルギー省政権移行チームのチェックポイント
新政権のエネルギー省(DOE) の焦点は石油・ガスであると同時に原子力についても前向きであるという。トランプ次期大統領のエネルギー省関連政権移行チームの陣容は、自由市場によるエネルギー政策を推進する「アメリカエネルギーアライアンス」のトーマス・パイル氏(ヘッド)、やはり自由市場によるエネルギー政策を重視するエネルギー調査研究所(Institute for Energy Research)のトラビス・フィッシャー氏、下院エネルギー商業委員会スタッフだったマーチン・ダネンフェルザー氏、核不拡散を中心とする法律事務所のデービッド・ジョナス氏、ヘリテージファウンデーションのジャック・スペンサー氏、ミシガン州産業界を代表するケリー・ミッチェル氏からなる。同チームは石油、ガス、原子力に対するエネルギーインフラ、DOEが研究開発する技術の商用化支援に力を入れることとしており、特に下記に重点を置くこととしている。
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- パリ協定からの撤退
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- 石油・ガス生産のための公用地リースの促進
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- 新規石炭掘削のための公用地リース停止の解除
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- 連邦公用地リースによるエネルギー生産に関する州の権限強化
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- LNG輸出ターミナル認可促進
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- クリーンパワープラン見直し
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- 温暖化ガスが人間の健康と財産を侵害するという環境保護庁による「危険性の認定」の見直し
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- 風力エネルギーによる環境影響の注意喚起
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- 再生可能エネルギースタンダードの改定
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- オバマ政権による水資源管理政策見直し
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- 連邦の燃費規制緩和
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- 連邦規制における炭素の社会費用への考慮の否定
2.政権移行チームによるDOE予算関係見直し
政権移行チームはDOEに対して向こう4年間非軍事部門で最大10%の予算削減をする場合に対するコメントを求めている。トランプ次期政権はエネルギー政策に対する市場ベース以外のアプローチには批判的で、この分野での予算の変更・削減を検討することになる。特に再生可能エネルギーへの支援については新政権の元では減額される可能性は高い。
トランプ次期政権は化石エネルギーにウェートをおいた政策を支援するはずであるが、同時にエネルギーインフラ投資も重視している。DOEに対して政権移行チームは送電網などのインフラ投資が潜在的にどのくらいのベネフィットがあるかについて質問を提示している。
DOEの融資保証プログラムについてはオバマ大統領のクリーンエネルギー政策における中核を担ってきたが、共和党からの批判のターゲットになってきている。政権移行チームはDOEに対して現在どのくらい融資保証の申請がなされ、それらのプロジェクトの現在のステータスはどうかについて質問を提出している。トランプ次期政権においてはこのプログラムは廃止させるか、融資保証先を化石エネルギー中心のプロジェクトまたは送電網やガスパイプラインなどのエネルギーインフラプロジェクトにシフトさせようとする可能性は強い。
エネルギー高等研究局プロジェクト(ARPA-A)については、オバマ大統領のクリーンエネルギー政策促進のために技術イノベーションプログラムを支援してきた。上記融資保証プログラムとは異なり、エネルギー高等研究局プロジェクトは民主党のみならず共和党からも支持を得てきた。政権移行チームはDOEにこのプロジェクトリストの提出を求めているが、トランプ次期政権ではこのプロジェクトが化石エネルギーかエネルギーインフラ向けに修正されていく可能性は高い。
一般に政権移行チームはDOEのエネルギープログラムをいかにしたら商業化することができるかに焦点をあてて質問を提示しており、この方向性は向こう4年間強まるものと考えられる。
3.クリーンエネルギーおよび気候変動
政権移行チームはDOEに対してオバマ大統領の気候変動に関する活動とスタッフについて多くの質問を提示している。国際気候変動会議等に参加をしたスタッフのリストを提出させようとしており、民主党はこれを「魔女狩り」と呼んで批判をしている。具体的には炭素の社会費用に関する省庁間ワーキンググループに参加したDOE職員・協力者リスト、またその会議開催日、配布資料、過去5年間の気候変動枠組条約締約国会議(COP)に出席したDOE職員・協力者リスト、クライメートアクションプランに重要なDOE内プログラムはなにか、についての情報提供が求められている。選挙戦中トランプ次期大統領はパリ協定の破棄を訴えていたが、その後ニューヨークタイムズ紙でのインタビューでは後退、協定に対しては「オープンマインド」であるなどと発言していたが、その後の言動、上記の質問などをみているとやはりオバマ大統領の気候変動政策を修正することが明白であると考えられる。
4.原子力発電および廃棄物処理
政権移行チームは連邦レベルの原子力支援および廃棄物支援に積極的である。2016年度DOE予算(296億ドル)のうち原子力部門へ10億ドル、廃棄物処理などへ60億ドル、125億ドルが国家核安全保障局へ配分されている。つまりDOE予算の三分の二がすでに原子力に配分されていることになる。
(1)エネルギーインフラとしての原子力
政権移行チームは上記と異なり、トランプ次期政権では既存の原子力発電所の運転支援、原子力発電所早期廃止の回避、新型炉の研究開発の促進、ユッカマウンテンプロジェクトライセンス前進などに焦点をあて、DOEに質問を提示している。ここ数年、天然ガス火力との経済性の観点から運転ライセンスが切れる前にいくつかの原子力発電所が閉鎖されてきた中で、政権移行チームの対応は原子力産業に前向きなシグナルとして受け取られている。オバマ政権では原子力はクリーンエネルギーという観点で支援を受けてきたが、トランプ次期政権においては国家エネルギーインフラへの支援という合理性へシフトするものと考えられる。
(2)ユッカマウンテン
ユッカマウンテンは2010年、上院民主党院内総務だったリード上院議員の強い反対によりストップされてきたが、同議員の引退により、政治的阻害要因も取り除かれたこともあり、トランプ次期政権ではユッカマウンテンプロジェクトが前進することが期待されている。政権移行チームはDOEに「ユッカマウンテンプロジェクト再開になにか法的制限はあるか」と質問を提示している。しかし、これは政治的にストップしたのであり、ユッカマウンテンプロジェクトを再開するにあたり法的問題はないはずである。問題はオバマ政権の期間中ユッカマウンテンプロジェクトは予算上はライセンスプロセスに関するものだけの極めて限定的なものであったという点である。ユッカマウンテンに関するライセンス問題は2010年上記の政治判断を受け、DOEが原子力規制委員会(NRC)へのライセンス申請を取り下げていたところ、2013年コロンビア特別区連邦控訴裁判所がNRCに対してライセンスをレビューするように命令したことによりプロセスが再開、NRCスタッフは2015年1月5つからなる安全評価レポートを発表し、2016年5月には最終環境影響ステートメントを発表している。
ペリー次期長官は産業界の力も借りながらユッカマウンテンプロジェクトのライセンスプロセスの完遂を目指すものと思われる。同時に前国会で採択に至らなかった、原子力廃棄物管理法案の上程を関係議員は目指すものと思われる。
(3)小型モジュール炉の商業化
トランプ次期政権はDOE事業の商業化を大変重視している。原子力も例外ではない。政権移行チームはDOEに対して「DOEはその価値を最大化するためいかにしたら新型炉の研究開発活動を最大限活用できるか?そしてその開発と商業化のために投資家と共同しうるか?」という質問を提示している。これはトランプ次期政権の原子力政策での特徴を示すものといえる。
DOEはすでに2016年5月「新型炉開発と展開のためのビジョンと戦略」というレポートを発表し、その長期的な計画と省庁間協力のありかたの概略を示した。新型炉開発は議会の共和党サイドからも近年強い支援を受けている。上記の質問は新型炉開発に関する外部投資家を呼び込み、単なる研究開発活動ではなく収益性のある事業にしようとすることを示唆している。
政権移行チームはまた小型モジュール炉(SMR)のライセンスの支援についても質問をDOEに提示している。現在DOEのSMRライセンス支援のためのプログラム(LTSプログラム)は、ニュースケールの提案による設計承認申請のレビューとTVAおよびユタアソシエテッドミュニシパルパワーシステムズへのサイトライセンスのプロジェクトの支援を行っている。
(4)その他
他に政権移行チームはDOEに以下のような質問を提示している。
「DOEは商業用原子力発電所を含む米国エネルギー技術の海外輸出に関わる制度上の負担をいかに軽減するかについて考えはあるか」。これはトランプ次期政権の関心が米国原子力産業の海外輸出のネックとなっている規制面制度面の負担を軽減することによって輸出をいかに容易にするかにあることを示している。
「(イラン核問題の最終合意文書である)『包括的共同作業計画(JCPOA)』についてのDOEの役割はなにか」。これはモニーツ現DOE長官がとくにJCPOAについて大きな役割を果たしたことにトランプ次期政権は強く批判的であることを示している。
「世界的に公的および民間の核融合計画にどのくらいの財政的支援がなされているか」。核融合プロジェクトに対するトランプ次期政権の関心が伺える。
5.エネルギー情報局
政権移行チームはDOEに対してエネルギー情報局(EIA)の分析およびモデリングに関して15の質問を提示している。これは再生可能エネルギーのコストに関わる情報が背景となっている。質問には下記のようなものがある。
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- EIAは過去8年にわたってそのデータおよび分析についていかに独立性を保証するか?
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- 2016年アニュアルエナジーアウトルックになぜクリーンパワープランをレファレンスとして組み込んだか?
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- EIAはこれまで再生可能エネルギーのための送電コストの追加の必要性をどのように述べてきたか?
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- EIAのハイケースがシェールガスおよび石油ルネッサンスによると描いているが、どうしてレファレンスケースの前提としなかったのか?
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- EIAはそのデータと分析においてもっとも改善が必要であると考えるのはどの分野か?
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- EIAはマネージメントおよびスタッフのポジションのどれだけの欠員があるか?もし1月20日までにそれらを埋めるとしたらどのようなプランがあるか?
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- EIAの予算は良質のデータと分析を保証するため十分か?もしそうでなければどの分野が足りないか?
これらの質問から政権移行チームはEIAが政治的に、したがって不当にオバマ政権の圧力によりEIA長期見通しにおいて石油・ガスの貢献を過小評価したと見て懸念していることが明らかである。たとえばEIAの見通しはシェール革命の中の石油生産を過度に保守的にみて2011年から2014年の石油高価格期間の堅調な石油生産を過小評価し、現時点で石油生産の減少を見通していた。しかしながら石油・ガスにおけるEIA長期見通しの乖離はEIA見通しにもともとある保守的性格そしてシェール石油生産のデータの不足によることに求めるべきではないだろうか。
プルーイット環境保護庁長官、ジンキ内務省長官、ティラーソン国務省長官、ペリーエネルギー省長官の人事はトランプ次期政権の化石エネルギーへの強い支援を予想させる。また関係省庁の政治任命の上級スタッフポストも化石エネルギー関係の人材を登用することが見込まれ、かれらはエネルギー・環境面でのオバマ政権が作ったDOEの政策基盤を弱体化することに専念することが見込まれる。
- <出典>
- CleanTechnica
「Full Text of 74 Item Questionnaire Trump Transition Team Sent to DOE」
国際技術貿易アソシエイツ
タウシャーインターナショナル