「世界フェア」から探る日本の再エネ将来像
地産地消の分散型エネルギー社会へ
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
(「月刊ビジネスアイ エネコ」2016年9月号からの転載)
「再生可能エネルギー世界フェア2016」として、「第11回再生可能エネルギー世界展示会」と太陽光関連の日本最大級のイベント「PVJapan2016」が先日、パシフィコ横浜で開催されました。世界フェアを通して、再エネの将来を探りたいと思います。
太陽光は安全対策が重要に
世界フェアでは、12の大分類に分けて①政策・総合概念、②太陽光発電、③太陽熱利用、④環境建築、⑤風力、⑥バイオマス、⑦水素・燃料電池、⑧海洋エネルギー、⑨地熱・地中熱、⑩エネルギーグリッド・パワエレ、⑪省エネ・ヒートポンプ、⑫中小水力・未利用エネルギーと、広範囲にカバーしました。最新技術や製品、サービスが紹介され、国内外の講師を迎えた多彩なフォーラムが提供されました。
出展ブースを見て回り、印象に残ったことの1つが、太陽光発電の出展傾向が変わったことです。以前はメーカー各社が太陽電池モジュールの特徴や性能を前面に押し出していましたが、今回は住宅向け太陽光発電システムと蓄電池を組み合わせたエネルギーマネジメントシステム(HEMS)や産業用システムソリューションの展示が目立ちました。
「再生可能エネルギー世界展示会」を主催した再生可能エネルギー協議会の黒川浩助理事長(東京農工大学名誉教授、福島大学客員教授)は長年、国のエネルギー政策のブレーンを務めてきました。黒川理事長に今回の世界フェアの雑感と再エネの行方についてうかがいました。
「今年の来場者は約2万5000人と昨年より減りました。これは、太陽光への一部のネガティブな報道が影響したのだと思います。これまで太陽光を投資対象、単なる“金勘定”で見ていた人たちが来なくなったのでしょう。来年4月1日の『改正再生可能エネルギー特別措置法(新FIT法)』施行により、太陽光は長期的かつ健全な成長に向けた事業へと軸足が移ります。設計や施工が不十分な太陽光発電システムの太陽電池モジュールが強風で飛ばされたり、水害で水没した太陽電池モジュールによる感電リスクが懸念されたりして、太陽光発電システムの早期安全対策が求められています。今後は設備認定申請の段階で、安全対策の設計図書が必要になります」
太陽光発電市場は急拡大し、累積導入量30GW(3000万kW)まで普及しましたが、安全性の高い発電事業を目指す上で、太陽光のO&M(運転管理・保守点検)に関する新たな市場が成長する、と言います。
再エネはもっと活用できる
「風力発電は開発にあたり環境影響評価だけでも2、3 年かかります。地熱発電は資源探査も含めて8年程度かかります。景観問題や住民反対などの課題にも直面しています。日本の風況は山岳で不利なため、有望なのは洋上風力と思われます。しかし、日本の海は深いため建設コストが高くなりますが、洋上は風況が良く、ベース電源の1つになる可能性があります。広範な海域を活用し、波力や潮流などの海洋エネルギーを活用した発電の開発が期待されます」
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の出展ブースは多くの人たちでにぎわっていました。私が注目したのは、バイオマス分野の液体燃料の実証です。鹿児島県内で、産学連携でバイオ燃料用藻類(ボツリオコッカス)の屋外大規模培養の試験設備を建設し、2015年度に運用開始。微細藻類由来のバイオディーゼル燃料、バイオジェット燃料の30年ごろの商用化を目指し、要素技術を開発していきます。
「ブラジルなどでは、アルコール系自動車燃料が実用化しています。液体系のバイオマス燃料は、輸送に既存インフラを利用できるという点で、木材系より有利です。電気、熱、石油代替燃料など用途が広いバイオマスは、森林・植生を維持していく限り、CO2を排出しないカーボンニュートラルな性質を有し、温暖化対策にもなります。日本はもっとバイオマスを利活用できる可能性があります。また、燃料転換の効率を高めるための遺伝子組み換えなど最先端の研究開発もこれからの領域です」(黒川理事長)
同時に進む広域化と分散化
経済産業省の林幹雄経済産業大臣は、今年6 月のミッション・イノベーション閣僚会合で、2021年度までの5年間で次世代クリーンエネルギー技術への研究投資を900億円に倍増させることを表明しました。研究開発費は、太陽光発電、水素発電、蓄電池などの次世代技術に重点的に投資し、電力を効率的に利用するシステムなどの開発を目指します。
現在、電力システムの需給バランスの管理は、火力など主要な発電設備を利用した集中エネルギーマネジメントによって実施されています。黒川理事長は、電力を効率的に利用するシステム開発が再エネの普及拡大には不可欠と話します。
「太陽光発電などの系統接続問題も、中間層である地域間での電力のやり取りをネットワークでつなぐことで、地域内の需給調整がかなり解決できます。電力システム改革が進められ、既存の電力会社のエリアを越えた電力需給調整の“広域化”が進められていますが、同時にスマートコミュニティなど再エネを軸とした地域分散型エネルギー社会の仕組みがつくられつつあります。さまざまな再エネの利点を組み合わせながら全体で調和させ、地域全体をネットワークでつなぎ、揚水や定置式蓄電池、電気自動車(EV)のバッテリーなどエネルギー貯蔵設備を活用するのが“分散化”のカギです。新たな二次エネルギーとして水素のエネルギー貯蔵技術も将来の再エネ普及を後押しするでしょう」
日本政府の長期エネルギー需給見通しに占める再エネの発電電力量割合は30年度時点で22~24%。今回の世界フェアを通して見えてきたのは、さまざまな再エネをうまく組み合わせ、地産地消の分散型エネルギー社会をつくることにより、日本のエネルギー自給率6%というエネルギー制約から解放されていく将来です。