クリントン氏 VS トランプ氏、最近の動向と世論調査


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 11月の米大統領選は、民主党のヒラリー・クリントン前米国務長官と共和党の不動産王ドナルド・トランプ氏の対決が確定した。両候補は副大統領候補を決め、7月の党全国大会で指名されることになる。本稿では、7月の党全国大会を控え、クリントン氏とトランプ氏をめぐる最近の動向と世論調査の結果を中心に、経過報告としてまとめたいと思う。

両候補をめぐる最近の動向

 地球温暖化懐疑論者のトランプ氏は、5月18日、COP21で合意されたパリ協定での合意に反対し、協定から脱退する意向を発言している。この発言を受けて、トランプ氏が次の大統領になるかもしれない危機感から、国際社会ではパリ協定を年内に発効する動きが活発化している。世界第2の排出国である米国が離脱し削減義務を怠れば、すべての国や地域が参加して取り組む2020以降の地球温暖化対策は協調体制が崩れてしまうことになる。ただ、パリ協定には発効後4年間は実質的に脱退できないとする規定があり、新大統領就任の来年1月より前の年内に発効しておきたいという思惑だ。パリ協定の発効には少なくとも55カ国が批准し、参加国の排出量の合計が世界全体の55%に達する必要があるが、日本政府も「パリ協定」承認案の審議を今秋の臨時国会で実施する調整に入ったとされる。

 トランプ新大統領誕生に対する国際社会の危機感が高まる一方、最近のトランプ氏の選挙戦は、選対本部長の解任や、同氏が運営する「トランプ大学」をめぐる裁判の判事がメキシコ系の出自で偏向していると発言して批判を浴びるなど、トランプ旋風の勢いにやや陰りが見えている。

 一方、クリントン氏は、過去の共和党政権の元高官らによる支持表明が相次いでいることを米メディアが伝えている。共和党のジョージ・W・ブッシュ前大統領の下で財務長官を務めたハンク・ポールソン氏はワシントン・ポスト紙の寄稿の中で、トランプ候補の大統領への就任はまったく想像出来ないとして、共和党の保守派に連なる他の元高官らもクリントン候補支持で結集するだろうと予測している。また、フォード元大統領らの下で国家安全保障問題担当大統領補佐官をつとめたブレント・スコウクロフト氏も、クリントン氏の外交政策での豊富な経験を高く評価し、支持を表明している。

最近の世論調査ではクリントン氏リードだが・・

 米大統領選へ向けた世論調査では、数週間前までのクリントン氏とトランプ氏の支持率はほぼ互角か、トランプ氏がやや上回っていたが、新たな世論調査が2件実施されているので紹介したい。ワシントン・ポスト紙(WP)とABCニュースが実施した調査では、クリントン氏の支持率が51%と、トランプ氏の39%を12ポイント上回る結果となった。一方、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)とNBCニュースの調査ではクリントン氏46%、トランプ氏41%と、支持率の差が5ポイントにとどまった。2件の調査結果のリードの幅には差がみられるが、2件とも民主党のクリントン候補が共和党のトランプ候補を上回る支持を得ている。しかし、リバタリアン党の ゲーリー・ジョンソン元ニューメキシコ州知事やアメリカ緑の党のジル・スタイン氏ら第3の候補者を考慮に入れた場合では、WP/ABCの調査ではクリントン氏が10ポイントのリードを維持したものの、WSJ/NBCの調査ではリードの幅が1ポイントまで縮まる結果となっている。

クリントン氏 VS トランプ氏

 クリントン氏とトランプ氏の両候補の不人気さが今回の大統領選の目立つ点でもあるが、両候補に対する反感は根強く、多くの有権者が「第3の候補者」を検討することに前向きになっていることを、世論調査の分析結果としてウォール・ストリート・ジャーナル紙が伝えている。特に、民主党の候補指名を争ってきたバーニー・サンダース上院議員の支持者のうちクリントン氏に不満を持つ有権者が第3の候補者を選び、クリントン氏が票を奪われる可能性があることを指摘している。

ゲーリー・ジョンソン

第3の候補者になるか?ゲーリー・ジョンソン元ニューメキシコ州知事 出典:WSJ

 もうひとつ、クリントン氏が党大会前に支持を失いかねない懸念材料だった、長官在任中に私用のメールアドレスを公務に使っていた問題については、米連邦捜査局(FBI)のコミー長官が5日、「違法だったという明確な証拠は見つからなかった」と述べて、刑事訴追を見送る方針を示した。最終的な判断は司法省が下すことになるが、クリントン氏が訴追される事態になれば、大統領選に大きな影響を及ぼすと思われた最大の懸念材料は払拭できそうだ。しかし、両候補の支持率はまだ流動的であることから、本選ぎりぎりまでどうなるのかわからない情勢だ。

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