人と地球を救う鉄 「超ハイテン」

~クルマの環境対策と安全性向上~


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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CO2排出削減効果とコストの安さ

 新日鐵住金の上西、水口両氏にハイテンのコスト面や環境面についてうかがいました。 
 「鉄と大根では1㎏あたりどちらが安いと思いますか?大根は季節により100~200円の価格帯なのに対し、鉄は100円程度です。天然資源の鉄鉱石はどこにでも存在し、枯渇の心配もありません。鉄はコストが安く、生産性が高い上、プレス性、溶接性塗装性に優れています。大量生産できるからこそ高い機能が低コストで得られます」(上西氏)

―― 環境面のメリットは? 

 「車体のハイテン使用比率が現在の平均40%から60%まで高まると、燃費は約4%向上し、日本全体で約5600万ギガカロリーのエネルギーが節約できます。これは、ガソリン220万kℓ分に相当します」(水口氏)
 「鉄鋼製造時のエネルギーは、溶かして固めるまでのエネルギーがほとんどを占めます。成分調整と冷却を工夫してつくるハイテンの製造エネルギーは、一般鋼板に比べてわずか0.4~0.5%の増加ですみます。鉄の使用量が減ることによる製造時のCO2排出量の削減効果も得られます」(上西氏)
 このほか、車体軽量化により走行時のCO2排出削減もできます。また、廃車になった後は、鉄はスクラップとして分別回収でき、製鉄所で新しい鉄鋼製品として再生されるリサイクルルートが確立され、何度でもリサイクルできるのも強みです。素材の製造から廃棄までのライフサイクルにおいても、ハイテンは環境に配慮したクルマづくりに貢献しています。

図3 ハイテンはライフサイクルを通じてクルマづくりの環境負荷を低減 出所:新日鐵住金

図3 ハイテンはライフサイクルを通じてクルマづくりの環境負荷を低減
出所:新日鐵住

今後の展望

 超ハイテンの大きなメリットは衝突安全性が高まったことです。上西氏は「超ハイテンを適用したクルマは軽量で高い安全性が得られます。安全性を向上するさまざまな取り組みが功を奏して20年前に1万人だった交通事故による死者数は、直近の調査では半分以下になっていると思います。衝突の際、明らかに潰れ方が変わっています。人がいるところは強度が高い超ハイテンや高機能ハイテンで守られ、ドア回りやキャビンは潰れにくくなりました」と解説します。
 「現在実用化されている最強度の鋼材は明石海峡大橋の3500MPa(3. 5GPa)です。鉄のポテンシャルは10GPaと言われていますので、超ハイテンは理論上、強度をもっと高められます」(上西氏)

―― 超ハイテンの今後の展望は?

 「日系自動車メーカーは、海外生産シフトを進めており、海外生産比率は60%を越えてさらに上昇する見込みです、高成形性超ハイテンを日本だけでなく、海外でも供給できる体制が求められています。当社では、米国アラバマ州の合弁工場カルバート社で高成形性超ハイテンの生産体制を2016年末めどに整え、現地に展開する日系をはじめとする自動車メーカー各社に売り込む計画です」(水口氏)
 環境にやさしく命も守る超ハイテンは、日本のものづくりの強みを活かせる素材です。鉄の無限の可能性に期待したいです。