先進エネルギー自治体(2)
岩手県北上市『あじさい型コンパクト・スマートコミュニティ』
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
北上新電力が地産地消の電力を推進
市は2012年にマスタープランを作成し、2014年度には市所有のメガソーラー2.9MWが完成し売電を開始。2015年度に太陽光発電、蓄電池などのすべての設備の設置が完了しました。2015年度上期における地産エネルギーの流通量は約40万kWhで、これは一般家庭の年間消費量の約100世帯分に相当します。2016年度から、市内でのエネルギー利用の最適化と防災機能の向上に向けて、本格的に運用を開始する予定です。事業主体は、北上市、北上新電力、NTTファシリティーズ(CEMS運用)の三者で、エネルギーの地産地消の促進にむけた協定を2033年まで締結しています。
実際にCEMSを運用する司令塔は、市とNTTファシリティーズが設立した「北上新電力」です。北上新電力が地域内のメガソーラーの電力を買い取り、市役所の庁舎や防災拠点などに電力を供給するサービスを行い、さらにBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)や蓄電池を使って電力の消費量の抑制を行います。地域の新電力が、CEMSでマネジメントすることにより、地域エネルギーを市内に循環させ、エネルギーによる地域間連携とエネルギー自給率を向上させる役割を担っています。2016年4月以降は、50kW未満の低圧にも市場を拡大する予定です。ちなみに、メガソーラーは市が固定価格買取制度を利用し運用しており、20年間の売電収益を確保できる見込みです。売電収益は事業で必要となる設備構築費や設備運用費に充当させる一方、余剰となった売電収益は、市の環境・エネルギー施策に活用していきます。
いかなる時も、住民に安全安心な暮らしを
公共施設の太陽光や蓄電池、電気自動車(EV)は、平常時は建物における使用電力の削減やピークカットに活用し、エネルギーコストの低減を図ります。ゼロエミッション電源を活用することで、CO2排出削減にも貢献します。災害時には、CEMSで太陽光発電量と蓄電池残量を把握し、電源が枯渇した拠点へEVによる電力のバックアップを行う仕組みになっています。北上市は、「いかなる時も、住民ができる限り自力で安全安心に生活できること」が自治体のレジリエンスだと考えています。市自らが再生可能エネルギー発電所や分散型電源などの設備を所有し、自らの投資によりスマートコミュニティを展開していく姿勢に、いかなる時も市民の暮らしを守っていこうとする強い意思が感じられます。