固定価格買取制度導入の経緯・失敗の原点(その2)
印刷用ページ5)初年度調達価格の決定~破綻の始まり
調達価格等算定委員会は2012年3月6日にスタート、3月19日に開催された第3回会合注14) では、太陽光、風力、地熱の協会や事業者からのヒアリングが行われた。その中で太陽光発電協会は、IRR6%を前提とした場合、税込42\/kWhで20年間の買取期間が必要であり、設備規模によるコスト差はないと主張した。また、ソフトバンクの孫正義氏は、ヒアリング時点ですでに10か所200MWの場所を特定し、さらに二百数十件の候補地が寄せられていることを明かした上で、「仮に40 円で20 年だという試算をしたときに、二百数十カ所のうちの200 カ所ほどは採算が合わないということで見送らざるを得ない」と発言、その後の質疑応答においても「250 カ所のうちの二百何十カ所は40 円の20 年でもかなり厳しいぞと、われわれはあきらめざるを得ないかというほどの試算結果ですから、決してこれは濡れ手に粟という状況ではない。多くの地元の方々が自発的に、あちこちで発電活動をなされるような、ばさっとバケツで水を掛けることにならないような今回の価格になることを心から祈っております」と、かなり強い調子で要請していることが分かる。調達価格等算定委員会のメンバーは、再エネ政策・制度には精通していても、事業を手掛けた経験はなく、実際に事業者から「これだけ掛かります。それだけ頂けなければ事業はやりません。そうなったらこの制度はうまくいきませんが、いいんですね」と迫られれば、それに対する反論は難しかったであろう。4月27日に「平成24年度調達価格及び調達期間に関する意見」注15) が取り纏められたが、示された調達価格・調達期間は、事業者等からの意見を丸のみしたものであった。表5に、調達価格等算定委員会が示した初年度の調達条件案を示す。結果からみると、非住宅用太陽光の調達条件が事業者にとって極めて魅力的で、結果として太陽光バブルとも称される広がりを見せることになるのはこの時点で明らかであった。
しかし、いかに事業に関して素人といえども、当時すでに、FITで先行したドイツにおいて、中国製の大量流入による太陽光パネル価格の下落の傾向(図5)や、止まるところを知らない賦課金の上昇は、多くの専門家が指摘注16), 注17), 注18)していたのみならず、メディア注19) でも伝えられていたことから、委員会や、委員会を実質的にハンドリングしていた資源エネルギー庁としては慎重な対応を取るべきであった。実際に次年度以降、太陽光の買取価格が36\/kWh、32\/kWhと低下しても、太陽光の設備認定が相次いだことからも、調達価格等算定委員会は事業者側にいいようにやられたということではなかろうか。
実際の調達に係る情報を持たない委員が、真の「適正価格」を想定することなど不可能である。「適正コスト」の算定に用いるコスト情報が発電事業者の「言い値」である限り、また単に建設コスト実績を次年度以降の「適正コスト」算定に反映させるのであれば、発電事業者や設備メーカーにコスト低減を進めるインセンティブは全く働かず、電気の利用者の負担が軽減されることが望めないのは明らかであり、よってこの制度はいわば再生可能エネルギー専用の「非査定型総括原価方式」、すなわち「ガバナンスの利かない青天井型総括原価方式」となる。本来、再生可能エネルギーの導入拡大と過重負担の回避を両立させるためには、事業者や設備メーカーに対して常にコスト低減努力が求められるシステムとすべきであり、そのためには「実績価格のフィードバック」を行うのではなく「目標価格によるターゲティング」を指向すべきであった。具体的には、国内におけるベストプラクティスコストを用いたり、すでに設備の低価格化が進んでいるドイツなどのチャンピオンプライスをコスト算定に用いるなどが考えられたはずである。図6は、買取価格が見直される前後での太陽光モジュールの市場価格であるが、買取価格改定のタイミング(毎年4月)において、前月(毎年3月)から、一月もたたない中で、モジュール単価が1万円/kW程度、中には5万円/kW程度下落している傾向が見える。この短期間で、実際にモジュール価格のコストが低下したとは考えにくいことから、要は、製造業者は売れる価格で売るということがわかる。
2012年7月に公表された平成24年度年次経済財政報告(経済財政白書)に、固定価格買取制度について、次のようなコメントが記載されている。「(固定価格買取制度は)サーチャージによる転嫁に支えられた高収益事業であるため、太陽光発電への法人や個人の参入は進むと見込まれるが、その費用を負担するのは各地域の電力会社に加入している需要家である。(中略)ある年度の収支尻はその年度の翌々年度のサーチャージに反映させることで均衡を図ることとされている。一般世帯を含む需要家が事後的に確定する支払超過額を負担する仕組みであるから、買取価格やサーチャージの設定・改定段階において、価格設定の妥当性や費用効率につき、検証することが必要である。こうした関連部分も含めて公共料金と見做し、公正妥当な改定をしていくことが望まれる注21) 」
同白書の発行は固定価格買取制度スタートからわずか3週間後の7月下旬である。政府内部においても、すでに制度開始時点で、固定価格買取制度が持つ危険性を指摘する声が上がっていたわけである。
- 注16)
- 小野透, 「日本版再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)について」, 国際環境経済研究所, 2012年6月, http://ieei.or.jp/2012/06/opinion120626/
- 注17)
- 2011~2012年当時の竹内主席研究員のFIT関連の文献
- 注18)
- 2011~2012年当時の電力中央研究所社会経済研究所朝野主任研究員のFIT関連の文献
- 注21)
- 平成24年度 年次経済財政報告, p134-135, 2012年7月
(その3)へ続く