ミッシングマネー問題にどう取り組むか 第1回

電力システム改革の帰結


Policy study group for electric power industry reform

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 上述のとおり、電気は生産されたものが即消費されるため、生産者から見ると、消費される瞬間に電源が稼働していないと収入はない。図1で、D=D2の場合は、G1、G2が稼働して収入を得る一方、G3~G6は稼働しないので収入はない。D=D1の場合は、G1~G5は稼働して収入を得るが、G6は収入がない。このような市場環境の下で、電源保有者が、売値に固定費を加算して発電の機会、つまり収入を得る機会を逃すよりは、限界費用より少しでも高い価格で売れるならば発電した方がましだと考えれば、固定費の回収を考慮せずに、限界費用で売値を提示することになる。

 上記のような行動を促す圧力は、市場に発電事業者が多数存在するほど、発電事業者はプライステイカー(完全競争市場において、価格を受容して行動する参加者)となり、強まることとなる。その場合、図1の青い線は各電源の限界費用が安い順に並んだものになる。

<限界費用価格形成の結果としてのミッシングマネー問題>

 その結果、各電源の保有者は、固定費を回収する原資を、市場価格(その時間帯に発電した電源の限界費用のうち、もっとも高いもの)と自己の限界費用との差分に期待することになる。図2に固定費回収原資のイメージを示す。オレンジの網掛けの部分が各電源が得る利益で、これが固定費を回収する原資となるが、ピーク時間帯であっても、稼働していないG6、稼働しているものの自己の限界費用がkWh市場価格となっているG5は、固定費回収の原資を得ることはできない。

図2 kWh市場における固定費回収原資(出所)筆者作成

図2 kWh市場における固定費回収原資
(出所)筆者作成

 このように、電気事業への市場原理の導入を進めると、電気の技術的な制約などに起因してkWh市場からの収入だけでは、電源固定費を回収するために十分な原資が得られない問題が生じうる。その場合、既存電源の採算性が悪化するとともに、固定費回収が不透明であることから新規の電源投資も難しくなり、必要な供給信頼度が維持できないことにもなる。つまり、ミッシングマネー問題注5)が発生する。

 市場に発電事業者がそれほど多くなく、発電機会が見通せる場合は、限界費用による売値提示を促す圧力はそれほど強いものにならない。その場合、電源保有者は他産業で行われているように、固定費回収を考慮した、すなわち限界費用よりも高い価格を提示することが可能になる。このような価格付けを市場支配力の行使と批判する意見注6)もあるが、固定費が回収できなければ事業を維持できないから、固定費を加算すること自体は、新聞社が紙代とインク代だけで新聞を売れと言われないのと同様に、批判されるものではない。

注5)
ミッシングマネー問題はピーク電源で特に顕著に現れるが、理論上はミドル電源、ベース電源でも発生しうる。図4について言えば、G1からG4は固定費回収の原資を得ているが、年間を通じて十分な原資が得られなければ、ミッシングマネー問題が発生する。詳しくは山本・戸田(2013)
注6)
例えば、第7回電力システム改革専門委員会(2012年7月)において、委員から次の発言があった。「取引所には大きな改革を行うべき。売りについて、電力会社は限界費用に固定費を上乗せしたものを出しており、それでは意味がないと考える。例えば、限界費用から1銭でも高ければ売るべきであり、それが自社の利益になると考える。限界費用よりも高いにもかかわらず売りを出さないのは独占力を行使して価格を釣り上げているということ。売りについては限界費用で出すべきであり、それを行政がチェックする仕組みが必要。この措置については、自社に損はないはずである。」(出所:経済産業省(2012))
<参考文献>
 
山本隆三、戸田直樹(2013) , “電力市場が電力不足を招く、missing money問題(固定費回収不足問題)にどう取り組むか”, IEEI Discussion Paper 2013-001
経済産業省(2012) , “第7回電力システム改革専門委員会議事要旨

執筆:東京電力株式会社 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室長 戸田 直樹

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