パリCOP21を目前にして、気候変動問題についての取り組みを考える

書評:有馬 純 著「地球温暖化交渉の真実 - 国益をかけた経済戦争」


国際環境経済研究所主席研究員、(一財)日本原子力文化財団 理事長

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<京都議定書の欠陥>

 京都議定書は、先進国グループだけにGHG排出削減を義務付け、途上国には義務付けがない。現実は、エネルギー起源CO2の排出で見ると世界の全排出量の60%強が非OECD諸国によるものとなっている。排出増分で見るとそのほぼ全量が非OECD諸国によってもたらされている。極めて難しいことだが、発展途上国の排出削減がない限り、現実には、地球全体でのGHG排出削減など出来るはずもないのだ。

<そして、2020年以降の国際枠組みについての日本の意見も十分主張>

 カンクンでの著者による歴史的なスピーチは、第九章に詳しい。忘れていけないことがある。このスピーチでは、2020年に向けての日本提案(全ての主要排出国の参画、それを実現するための柔軟で現実的な国際枠組み)の考え方もしっかりと語られていることである。日本が主張するとおり、排出削減義務を先進国だけに課し、発展途上国には課さないというこれまでの二分法は、現実的でないばかりか実効性がない。どうしても、米中を始めとする主要排出国の全員参加が必要なのだ。そうでなければ、地球規模でのGHG排出削減はありえないといえる。そして、その実現のためには、国際枠組みは、現実的なものであって柔軟でなければいけないのだ。

<コペンハーゲンCOP15・大失敗ながら、示された将来の方向性>

 実は、この方向性は、有馬がスピーチの中で触れているとおり、2009年コペンハーゲンCOP15において芽生えている(第六章、第七章)。このCOP15は、議長国デンマークの失敗によって、国連交渉の崩壊とまで言われ、その合意は、COPでの“採択”ではなく“留意”に終わった。しかし、最終場面で積極参加したオバマ大統領を始めとする首脳たちが自らドラフティングしたわけで、それだけの成果があったといえる。
 この第九章までで、これまでのCOPを中心とする交渉の経緯についての語りは一応終わる。ここまでに書かれたことは、国際交渉の記録として、後々まで、評価されるだろう。

<後半に提言が>

 第十章「温暖化交渉はなぜ難航するのか」以降は、著者が長い経験の中から得た貴重な解釈・見解、そしてCOP21に向けた日本への提案が書かれる。最終第十四章「温暖化交渉に日本はどう臨むべきか」である。提案は、極めて現実的で、建設的である。また、これも前に触れたが、著者は、COP21議長国フランスに、ブラッセルEUとは違ったプラグマティックな考えを見て、これに期待している。パリ会議は、もう真近い。会議の前までに、関心ある人たちに本書を読んでもらいたい。そして、年末にパリから送られてくるニュースに接してもらいたい。

<21世紀の南北問題>

 結局、このCC国際交渉は、EUによる世界覇権の理念によってこれまで動かされてきた。先進国間の削減目標数値設定競争が法的拘束力のある枠組みの下で、“意欲的に、意欲的に”という言葉の鞭によって拍車をかけられてきた。
 しかし、20年を超える長期の交渉の間に、発展途上国は成長し、GHG排出面では、かっての先進諸国にとって代わって中心的原因者となった。今では、これらの国々の努力なくして、地球規模でのGHG排出削減の実効は挙げられなくなっている。一方、400ppmに達した大気中CO2濃度は、世界各地で激しい気候変動を引き起こしているようだ。CCへの対応が急がれる。
 CC対策としてのGHG排出削減や気候変動による影響緩和措置に必要な資金、技術、人材などの投入資源は、他にも使うべき大きな問題もあるわけで決して十分ではない。こうした状況にあって、投入資源の先進国から途上国への移転実行が急がれ、次第に具現化しつつある。地球環境ファシリティー(GEF: Global Environmental Facility)に加えてコペンハーゲン(COP15)を経てカンクン合意(COP16)により設立決定されたグリーン気候基金(GCF: Green Climate Fund)もできた。京都議定書の下では、クリーン開発メカニズム(CDM:Clean Development Mechanism)や共同実施(JI:Joint Implementation)なども対応する資金源だった。
 30年程前に、西ドイツのヴィリー・ブラント首相は、“南北問題”の報告書をまとめた。現在のCC問題は、21世紀の南北問題の一つになってきている。最も重要なのは、ブラント報告にもある出し手と受け手のコミュニケーションであり、共同作業である。

<新たな経済戦争…新たなビジネスチャンス>

 しかし、ここにも、経済戦争はある。より具体的で激しいものになると思われる。資金を如何に使うか。何に使うか。その実施主体は何処の誰なのか。選ばれて対象となる技術は、適格か? 国連の、あるいは、国際機関の非効率性は排除されなくてはならない。資金の提供は、一種の選別である。果たして公平な選別はあるのだろうか。出来るのだろうか。こうした点について、著者は、“資金メカニズム”と“技術メカニズム”とのリンクが重要だと書いている。そのとおりだ。こうした動きは、別の見方をすれば、新たなビジネスチャンスでもある。日本のエネルギー効率のよい技術の移転普及に期待したい。少なくとも、パリCOP21では、これまでのような削減目標値の数値争いは止めてほしい。実効あるより具体的な方策が動き出すことの出来る国際枠組みがまとめられることを期待したい。具体的には、著者が最終章:第十四章「温暖化交渉に日本はどう臨むべきか」に熱筆を振るっている。全面的に支持をするところである。

◎ 本稿は、(一社)日本動力協会の「ニュースレター」(隔月刊)に「本に学ぶ」として、書き下ろしたものである。

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「地球温暖化交渉の真実 – 国益をかけた経済戦争」 
著者:有馬 純(出版社: 中央公論新社)
ISBN-10: 4120047695
ISBN-13: 978-4120047695