米国の再生可能エネルギー政策(4)~風力発電の新時代
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
(前回は、「米国の再生可能エネルギー政策(3)~藻類のバイオ燃料開発」をご覧ください)
「今後、米国内で再生可能エネルギーの中でもっとも普及が進むのは何か?」と、3月にワシントンでいくつかの政府系関係機関にヒアリングしたところ、異口同音に「風力」だという答えが返ってきた。風力発電は2006年から2014年にかけて新たに導入された発電設備容量の33%を占め、現在、米国の全発電電力量の約4.6%を賄っている。エネルギー省(DOE)は、2030年に米国の全発電電力量のうち20%を風力発電が賄うことを目標に掲げている。
全米風力エネルギー協会(AWEA)は、2015年4月15日、2014年の風力発電市場の傾向について新たな報告書「U.S. Wind Industry Annual Market Report」を発表している。以下の10項目がその要点である。
(1)風力発電産業の雇用者数の増加
2014年に2万2500人のフルタイムの雇用者が増え、全体で7万3000人となった。2012年末に風力発電施設のPTC(生産税額控除)期間の有効期限が切れたため、2013年は約3万人の雇用が失われたが、2014年は回復しつつある。(図1)
(2)風力発電導入量の回復
2014年は、4,854MW(485.4万kW)が運用を開始しており、2013年に比べて約4倍に増加している。(図2)運用開始した485.4万kWのうち、40%は長期電力購入契約(PPA)で契約された発電所である。現在、12,700MW(1,270万kW)の風力発電所が建設中だが、長期電力購入契約の対象となっている5,000MW(500万kW)の風力発電所は、2014年末までにまだ工事が着工できていない。
(3)全米50州が風力発電の恩恵を得る
全米のすべての州が、風力発電建設プロジェクト、または風力関連技術の生産拠点として、風力発電の恩恵を得ているとしている。風力発電所がない南東地域では、製造工場などにおける雇用者数が増えている。図3に、全米内の風力発電関連の製造施設のマップを示す。
(4)発電コストの大幅な下落
2009年から2013年にかけて米国の風力の発電コストは50%超も下落している。その理由として、風力発電技術の進展が貢献している。例えばローター(回転翼)の直径をより長くし、タワーを高くするなどの開発により、これまで風力発電所がなかった地域においても建設が可能になる。より高いタワーの開発によって、近い将来、南東部での開発が進むと予想される。
(5)風力発電は、米国内の新規導入発電設備ナンバー1
風力発電は、新たに導入された発電設備でもっとも大きなシェアを占めている。中でも、中西部、大西洋岸北西部、大陸中央部の平原地域などにおいては、2011年から2014年にかけて風力発電は新規発電設備の6割となっている。
(6)企業が積極的に風力の電気を購入
2014年の新規風力発電設備容量の約23%は、電力会社に代わって、アマゾン、マイクロソフト、ウォルマート、ヤフーなどの企業によってもたらされた。マイクロソフトは、今後データセンターで使用する電力を風力に切り替えていくことを発表しており、再生可能エネルギー事業を手掛けるRES America社と20年間の長期契約を結び、RES社がテキサス州に建設した風力発電所からの電力供給を受ける。多くの企業は、化石燃料の価格の見通しは不透明だが、風力発電の価格は安定していることに魅力を感じているという。
(7)CO2排出削減と水の節約に貢献
2014年に風力発電により削減されたCO2排出量は、1億2500万トンに上り、米国の発電部門におけるCO2排出を5.7%削減することに貢献した。風力発電の普及により、火力発電に必要とされる水の使用量6800億ガロンを節約したことにもなる。これらの数値は、当初予想された以上のクリーンな効果を発揮している。
(8)送電網の建設が進む
テキサス州は、風力資源に恵まれた条件のもと風力発電の開発が進み、全米ナンバー1の風力発電の導入量が多い州である。これまで風力発電所は主にテキサス州の西部地域で開発され、都市部の中南部に電力グリッドを通して送電されてきたが、送電線の容量以上に風力発電所の建設ラッシュとなり、送電線の拡充が必要となった。テキサス州では、テキサス電気信頼性評議会(ERCOT: Electric Reliability Council of Texas)が主導する形で、「Competitive Renewable Energy Zones」と呼ばれるガイドランを作り、「風力発電を開発する地区」と「必要となる送電網」を同時に検討する総合的な開発計画を立て、送電線の建設を進めた。テキサス州での成功事例に基づき、地域送電機関(RTO)のSPPやのMISOが管轄する中西部や南西部においても、同じスキームで風車開発地区と送電線の建設計画を進めていく予定である。
(9)安定した発電に寄与する風力
アイオワ州、サウスダコタ州、カンザス州の3州においては、風力発電が全発電電力量の20%超となっている。風力発電は、コロラド州の電力系統において60%超、テキサス州の電力系統において40%超を供給したことが記録されている。
(10)風力発電で世界をリードする米国
2014年、風力発電による発電電力量が世界でもっとも多かったのは米国である。米国における風力発電による発電量は1,810億kWhとなり、これは一般家庭の1,670万世帯が消費する電力に相当する。報告書のサマリーで、AWEAは、米国が今後も世界の風力発電市場をリードしていくためには、継続性ある政策支援が不可欠だと述べている。
◎次回は「米国の再生可能エネルギー政策(5)~風力発電の新時代2「洋上風力」」をお届けします。