米国の再生可能エネルギー政策(2)~太陽光の「サンショット計画」


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(前回は、「米国の再生可能エネルギー政策(1)」をご覧ください)

 米エネルギー省(DOE)は2011年2月、太陽光発電のコスト削減に向けた技術開発の10年計画「SunShot Initiative」(サンショット計画)を発表している。実用規模の太陽光発電の設置コストを2020年までに75%低減し、1ワット当たり約1ドル(キロワット時6セント)に引き下げられれば、全米に普及が拡大するというビジョンを描く。DOEは、2013年末に太陽電池コストは11.2セント/kWhに低減したことを発表しているが、補助金なしで、化石燃料など他のエネルギーとの競争力を持たせるのが2020年の最終目標である。(図1)太陽光発電による電力供給の比率については、2030年に13.8%(太陽光10.8%、太陽熱3%)、2050年に同27%(太陽熱19.3%、太陽熱7.7%)という野心的な目標を掲げ、(図2)サンセット計画における太陽光発電産業の雇用の創出について、2030年29万人、2050年までに39万人を目指している。


(図1) DOEホームページより Data courtesy of the National Renewable Energy Laboratory. Chart by Daniel Wood

(図1) DOEホームページより
Data courtesy of the National Renewable Energy Laboratory. Chart by Daniel Wood


(図2) DOEホームページより「サンショット計画の2030年と2050年のシナリオ」

(図2) DOEホームページより「サンショット計画の2030年と2050年のシナリオ」

 参考までに、アメリカ情報局(EIA)の米国内の「エネルギー見通し2015」(AEO:Annual Energy Outlook)の標準シナリオ(現在の政策を続ける場合)における2040年見通しでは、各電源の2013年からの推移は以下のように予測されている。再生可能エネルギーは、「クリーンパワープラン」によるCO2排出規制などの政策が延期されないことを前提とした数値となっている。(図3)再生可能エネルギーの電源割合の予測は(図4)に示す。

天然ガス 27%(13年)→31%(40年)
石炭   39%(13年)→34%(40年)
原子力  19%(13年)→16%(40年)
再生可能エネルギー 13%(13年)→18%(40年)


(図3)EIA 米国内の「エネルギー見通し2015」の標準シナリオ

(図3)EIA 米国内の「エネルギー見通し2015」の標準シナリオ


(図4)EIA 米国内の「エネルギー見通し2015」標準シナリオでの再生可能エネルギーの電源割合予測

(図4)EIA 米国内の「エネルギー見通し2015」標準シナリオでの再生可能エネルギーの電源割合予測

サンショット計画における太陽エネルギー技術への莫大な投資

 サンショット計画が発表されて以降、DOEは次の5つの分野における350プロジェクトに投資してきた。

太陽電池(PV)の研究開発
集光型太陽熱発電(CSP:Concentrating Solar Power)
太陽光発電システム設置等のソフトコスト(Soft Costs of Solar Deployment)
システムインテグレーション
テクノロジーをマーケットへ(Technology to Market)

 太陽電池の研究開発については、2015年1月29日、DOEは、太陽エネルギーの革新的な生産技術開発に4500万ドル、地域プログラムに1400万ドルの追加提供を発表している。太陽電池の発電効率の向上、信頼性の向上につながる研究開発や、2020年以降の次世代太陽電池の研究開発に力を入れる。

 ユニークなのは集光型太陽熱発電(CSP)開発への投資だろう。2010年以降、約6000万ドル規模の投資が行われ、CSPシステムや蓄熱器の性能を向上させ、CSP技術の実用化と市場拡大を目指して技術開発が進められてきた。CSPは太陽光を鏡やレンズに集中させ、発電に使う蒸気を発生させ、その蒸気でエンジンやタービンを回して発電する。CSPは、砂漠のような太陽高度が高く、広大な土地が必要になるが、雲で日射が遮られることによる出力の変化が少ないのが特徴で、低価格での電力供給が可能だと言われている。DOEは、CSPの発電コストを2010年の約21セント/kWh から2020年までに約6セント/kWhへと低減させることを目指している。(図5)


(図5)集光型太陽熱発電のコスト低減目標

(図5)集光型太陽熱発電のコスト低減目標

 2014年2月には、カリフォルニア州モハベ砂漠のアイバンパ・バレーに、世界最大規模の集光型太陽熱発電所「アイバンパ太陽熱発電所」(発電容量392MW:9万4400世帯分の電力に相当)が竣工し、竣工式にはDOEのモニツ長官も出席した。アイバンパCSPプロジェクトは、DOEから16億ドルの融資保証を得て、NRGエナジー、グーグル、太陽熱大手のブライトソース・エナジーが共同で開発したもので、米国で初めて集光型太陽熱技術を実用化したものである。DOEの融資保証の融資保証を受けている米国の集光型太陽熱プロジェクトはアイバンパCSPプロジェクトを含め5つある。


アイバンパ太陽熱発電所(DOEホームページより)

アイバンパ太陽熱発電所(DOEホームページより)

 アイバンパ発電所は、ヘリオスタットと呼ばれるソフトウェア制御の最新鋭ミラーを地表に並べて太陽エネルギーを反射させ、タワー(137m)先端部のボイラーに送り、高温・高圧の蒸気を作りタービンを回して発電する。(17万3000枚のヘリオスタットが設置されている)この地域は、希少な植物や生物(ロングノーズ・レパード・リザードやカメ類など)が生息しており、巨大な人工構造物が砂漠に造られたことへの周辺環境への影響を懸念する声もあったことから、希少な動植物の生息地を避けて設置し、水資源が乏しい環境に配慮し空冷システムによって蒸気を水に戻すクローズドループサイクル(廃棄することなく、素材を有効活用する新しいリサイクルの循環)を採用するなど、周辺環境への影響を最小限に抑える工夫がされているという。

退役軍人を太陽光発電産業への人材育成

 サンショット計画の一環で、 2015年4月3日、オバマ米大統領は、より多くの退役軍人や求職中の女性を、ソーラーパネルの製造や設置などに携わる技術者や営業職として養成する職業訓練プログラム「Solar Ready Vets program」を行うことを、ユタ州ソルトレイクシティのヒル空軍基地で発表した。職業訓練プログラムはヒル空軍基地を含む全国10か所の基地で、国防総省(DOD)とエネルギー省(DOE)が共同で行うが、訓練期間は4〜6週間、受講料は無料である。オバマ大統領は、今後5年間で退役軍人を含め計7万5000人の太陽光発電産業関連の技術者らを養成する目標も明らかにしている。


オバマ大統領が昼空軍基地を訪問(DOEホームページより)

オバマ大統領が昼空軍基地を訪問(DOEホームページより)

 米国では気候変動対策やCO2排出規制などにより、クリーンエネルギー分野の産業の成長が著しい。DOEによると、太陽光産業は2010年以降約5万人の雇用を創出し、過去4年間の雇用者数は86%の伸び率で、現在太陽光産業におけるフルタイムの雇用者数は17万4千人に上るという。米国の軍隊では、今後数年間で19万人が退役する見通しで、次の就職先が課題となっている。太陽光産業の雇用者における退役軍人の割合は2013年9.2%、2014年は9.7%に増えており、今年秋からスタートする太陽光の職業訓練プログラムにより、退役軍人の社会復帰、そして再生可能エネルギー産業のさらなる成長につながることが期待されている。

◎次回は「米国の再生可能エネルギー政策(3)~藻類のバイオ燃料開発」です。

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