米国のCCSプロジェクト(2)~CCS商用化・普及に向けた課題、取り組み
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
CCSのデータベース化
米国ではCO2の地中貯留のポテンシャルを示すGIS(Geographic Information System=地理情報システム)のデータベースやツールを構築している。貯留地点の探査、CO2の発生源、特性評価などの貯留可能量の調査などのデータなど、米国国立エネルギー技術研究所(NETL)のデータベースのバージョン5が公開されている。現在、2014年11月時点の世界の274件のCCSプロジェクトが登録されており、(内訳:炭素回収69件、炭素貯留60件、炭素回収・貯留145件)計画・開発段階のものもあるが、128件のプロジェクトがCO2圧入を行うなどCCS設備が稼働中である。
石炭火力の新設がなければCCSの技術的進展もない?
2013年9月20日の環境保護庁(EPA)による新設発電所のパフォーマンス基準の新提案で、各発電所におけるCO2排出量が制限され、CCS無しの新設の石炭火力発電所を事実上禁止することになり、共和党や石炭州の選挙区とする民主党の一部で同基準に疑問や反対の声が出ている。
同年10月29日、下院科学・宇宙・技術委員会と同委員会下のエネルギー・環境料小委員会が、「フルスケールの商用発電設備でのCO2排出抑制に対するCCS技術の現状」について合同ヒアリングを行っている。合同ヒアリングで証言に立ったウェスト・バージニア大学の石油・エネルギー・ナショナル・リサーチセンターのバジュラ・ディレクターは、「石炭火力の新設がない限り、CCS技術の商用準備段階の実証に向けた技術的進展は生じ得ない。EPAの提案するパフォーマンス基準の時期を遅らせた実施、研究開発、実証プログラムへの投資といった条件が揃ってはじめて、先進石炭技術による環境と経済競争力の改善というチャレンジを満たす機会が技術者に与えられるだろう」と述べている。
米国では、石炭火力への相次ぐ規制強化により、「CCSどころか、今後は石炭火力発電所をつくる必要がない」、「石炭から天然ガスへ」という決定的な転換期を迎えている。3月にヒアリングを行った政府系関係機関でも、「石炭火力への規制強化が、必ずしもCCS開発の進展につながるわけではない。CCS実用化にはイノベーションが必要だ。このままでは米国はCCS政策の方向性を見失うのではないか」という声もあった。
◎謝意:本稿の執筆にあたり、東京電力ワシントン事務所・副所長の西村郁夫氏に資料提供などご協力いただきました。
※次回は、「フューチャー・ジェン(未来の発電)プロジェクトの試行錯誤」です。