米国のCCSプロジェクト(1)~技術の概要


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 テキサス州ポートアーサーのエア・プロダクツ社の水素製造工場では、2013年5月よりDOEから2億8400億ドルの助成を受け、水素製造過程でメタンの水蒸気改質により生成されるガスからCO2を分離する設備を設置し、炭素回収・利用・貯留(CCUS)の実証プロジェクトを行っている。年間約100万トンのCO2が回収されるが、これを州内のヒューストンの油田に注入し、石油増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery)を行い、EORにより年間160~310万バレルの原油の流動性を上げ原油の増産を見込む。

商用CCS設備

出典:DOEホームページより:ポートアーサーでの商用CCS設備

 エネルギー省(DOE:Department of Energy)は、2013年11月7日、次世代CCS技術18プロジェクトに対して、総額8400万ドルの資金支援を行うことを発表している。18プロジェクトのうち、3プロジェクトは燃焼前ガス処理方式(新設ガス化複合発電(IGCC)などへの適用を想定)、15プロジェクトは燃焼後排気処理方式(既設、超臨界微粉炭火力、天然ガス火力などへの適用を想定)に関わる技術要素の開発となる。

 大口で資金支援を受けるプロジェクトとしては、IONエンジニアリング社(1500万ドル)、SRIインターナショナル社(1050万ドル)などの高性能CO2吸着液の(1)長時間連続運転試験、(2)原油の増進回収法(EOR)、化学プラントでのCO2の商用利用を念頭に置いたコスト低減に向けたパイロット試験をはじめ、(3)CO2吸着液と多孔性超疎水性膜分離法を併用した排ガスからの低コストCO2回収法のパイロット試験などが挙げられている。

 これまでのパイロット試験で行ってきたイオン液体吸収法、膜分離法のほか、すでに実証を行っている燃焼後処理技術((高性能アミン吸収法、チルド・アンモニア吸収法)、燃焼前処理技術(酸素吹き燃焼方式)を引き続き推進する一方、第二世代CCS技術としてリジェネラティブ・カルシウム・サイクル、ケミカル・ルーピング方式などを開発していく計画である。

 しかし、現状では、CCSのエネルギーロスは一般的に3割と言われており、燃料費で見た場合のコストは、CCS付火力発電のコストはCCSを伴わない場合に比べて1.5倍になると思われる。また設備費については、CCS付火力発電のコストはケンパー発電所を例に見る限りCCSを伴わない場合に比べて4倍くらいになり、依然ハードルは高い。CCSの推進をしていくためには、シェールオイル採掘の際の石油増進回収(EOR)としての利用や化学プラントでのCO2回収などエンドユース技術の開発とともに、長期ファイナンスのスキーム作りの実現に向けて現実解を見出す必要に迫られている。

◎謝意:本稿の執筆にあたり、東京電力ワシントン事務所・副所長の西村郁夫氏に資料提供などご協力いただきました。

※次回は、「CCS商用化・普及に向けた課題、取り組み」についてです。

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