「クリーンパワープラン」~石炭火力に厳しい新規制(1)
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
しかし、石炭火力発電は化石燃料発電の中ではCO2排出量がもっとも多いという課題の一方、低廉で安定した電力を供給するエネルギー源である。シェールガス革命により安価な天然ガスが燃料転換を後押ししているとはいえ、米国の電力業界が新規制により大幅な転換を迫られるのは必至だ。International Technology and Trade Associatesのエリック・ランデル氏は、「クリーンパワープラン、MATS、NSPSの規制強化によって、石炭から天然ガスへの燃料シフトは早期に進んでいくと思われる。しかし、これはオバマ大統領が石炭業界に戦線布告したようなものだ。事実上、新設の石炭火力発電は建てることはできなくなったと業界は衝撃を受けている」と話す。
クリーンパワープランは昨年6月の草案の官報発表後、複数都市における公聴会の実施や165日間(120日+延長45日)のパブリックコメント期間を経て、今年6月制定だった目標を遅延する見通しである。新聞などの世論調査では国民の半数以上が賛成との結果が出ているという。ランデル氏は、「2012年のスーパーハリケーン・サンディなどの異常気象による災害が国民に気候変動対策に目を向けさせた。国民の多くが“炭素汚染(Carbon Pollution)を防ぐ気候変動対策が必要だと感じているのだろう」と話した。
EPAが2012年4月16日に施行した水銀などの有害物質の規制(MATS)により、600の発電所にある1100の火力発電設備と300の石油火力設備がMATSの対象となり、老朽火力の退役が当面進むと思われる。クリーンパワープランによって生じる動きは、設備耐用年数の費用回収が見込めない老朽石炭火力(運開40~60年)の退役の促進に留まらず、もっとダイナミックなものになると見られている。
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- 謝意:本稿の執筆にあたり、東京電力ワシントン事務所副所長の西村郁夫氏に資料提供などご協力いただきました。
※次回は「石炭火力に厳しい新規制(2)」です。