米国の自動車戦略~燃料電池自動車


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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“all-of-the-above”政策

 米国エネルギー省は、2015年3月3日、燃料電池関連と水素エネルギー技術の開発に3500万ドルの投資を行うことを発表した。トヨタの燃料電池車“Mirai”が市場投入され、世界的に注目されている燃料電池自動車(FCEV)。ホンダは、2002年に「FCX」のリース販売を日本と米国で開始し、2015年中に新型FCEVを販売する見通しである。またホンダはGMと技術提携し、2020年頃に次世代型燃料電池システムと水素貯蔵システムの共同開発量産化を計画している。日産・ダイムラー・ファードは共同開発で2017年に世界初の手ごろな価格の量産型燃料電池車を発売する予定である。

 先日ワシントンDCで自動車業界にヒアリングした際、「オバマ大統領のエネルギー戦略は「all-of-the-above」政策である」という言葉を何度か聞いた。これは“全方位的”政策、つまり“利用できるすべての資源を利用する戦略”の意味だという。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッドだけではなく、燃料電池自動車は「“all-of-the-above”政策の重要な戦略のひとつで、輸入石油の低減と国内エネルギー源の多様化、米国の国際競争力の強化につながることが期待されている。

FCEV

写真:DOEホームページより

 DOEは「燃料電池・水素プログラム」を推進しており、2014年5月、水素燃料を利用したFCEV等のインフラの早期普及を目指し、「H2USA」を立ち上げている。自動車メーカー、ガス供給事業者、燃料電池・水素エネルギー産業の官民連携で取り組みを進めていく方針である。

 FCEVは既存のガソリン車と同レベルの機能を有し、走行中の排出は水のみ、EVと比べて500㎞以上と航続距離が短く、充填時間も3分と短いというメリットがある。しかし、水素燃料の製造や貯蔵コストが高い等の課題があり、H2USAでは、FCEVをできるだけ早期に消費者が手ごろな価格帯で購入できるよう開発を進め、水素ステーションなどインフラ整備の経済性の評価などを行っていく。現在カリフォルニア州内には10の水素ステーションがあり、2023年までに100箇所整備する計画で、一歩先に水素社会の実現を目指している。連邦政府がH2USAを立ち上げたのは、カリフォルニア以外の州でも普及を促すためである。

ロードマップ

出典:CaFCP カリフォルニア州内の水素ステーション整備にむけたロードマップ

 これまでの米国での研究開発の成果で、自動車の燃料電池コストは2002 年から80%超の削減、2008 年から 35%超削減され、燃料電池の耐久性は2倍に向上するなど、技術面の向上はめざましい。FCEV、燃料電池を使ったバスやフォークリフトを含めた機器の開発、さらに熱電併給システムや電力予備システムとしての利用により、連邦政府は水素インフラ普及に弾みをつけたい考えだ。燃料電池および水素エネルギー技術向上に力を入れるのは、近年の米国のシェールガス革命で、水素の生産や水素燃料電池の駆動も安くできるようになったことも背景にある。