再生可能エネルギー大量導入時代の電力需給を考える(1)


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 先日5月11日(月)に東京大学駒場リサーチキャンパスでエネルギー工学連携研究センサー主催第21回CEEシンポジウム with NEDO「再生可能エネルギー時代の電力需給の新たな調整資源を考える」を聴講しました。現在、日本は太陽光発電の系統連系問題に直面していますが、これからまさに再生可能エネルギー大量導入時代を迎えます。日本における電力系統の制約条件を踏まえた再エネ導入の可能性を議論する上で、とても有意義なセミナーでしたので、その一部を紹介させていただき、情報共有したいと思います。

 国立研究開発法人・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)新エネルギー部総括研究員の岩田章裕氏による講演で、「the Power of Transformation(電力の変革」の概要についての解説がありました。この報告書、IEA(国際エネルギー機関)における「GIVAR(Grid Integration of Variable Renewable Project:出力が変動する再生可能エネルギーの電力システム統合プロジェクト)」の第3フェーズの主要な成果を要約したもので、2014年2月に発刊されています。

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7つのケーススタディの対象エリアでの分析結果をもとに、電力システムの中でのVRE(変動電源)の中心的役割を肯定し、状況に応じて費用がどのように変動するのか、VREの系統連系に関する経済的側面の分析をしています。
※ 7つのケーススタディ対象エリア:ブラジル、米国テキサス電力信頼度協議会(ERCOT)、イベリア(ポルトガル、スペイン)、インド、イタリア、東日本(北海道、東北、東京)、北西ヨーロッパ(デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、英国、アイルランド島、ノルウェー、スウェーデン)。

 風力発電や太陽光発電は、風量や日射量の変動により変動する再生可能エネルギーです。そのため、電力需給バランスを維持するための系統連系に関する経済性が大きな課題です。しかし、この報告書のサマリーでは、現時点で適用可能な柔軟性(需給調整)対策の総合的な評価を行った結果、VRE(変動電源)の高い導入シェア(VREの年間発電電力量の45%まで)は、長期的には電力システムにかかる費用コストの大きな増加なしで実現できることがわかったと述べています。これまで多くの場合、電力システムが持ち得るすべての対策を考慮せずに風力や太陽光を増加させようとしてきましたが、この伝統的な考え方では、重要な点を見落としてしまう。系統連系の影響は、VREと他の電力システムの構成要素の両者によって決まり、言い換えるとVREの系統連系は、従来通りにVREを単純に増加させるのではなく、電力システム全体を変革する必要があると述べています。

電力システム改革の成功には、次の3つの取り組みが柱になっています。

(1)
VREの導入が電力システムと調和していること
(System friendly VRE deployment)
(2)
電力システムと市場の運用が改善されること
(Better system & market operation)
(3)
追加的な柔軟性(需給調整)対策への投資が行われること
(Investment in additional flexibility)

(1)の「VRE(変動電源)の導入が電力システムと調和している」というのは、VRE の発電費用のみの低下ではなく、電力システムの全体費用を低減することを意味しています。 VRE プラントの設計は、単純に常に発電出力を最大化するのではなく、システム全体の視点から最適化することが大事になります。例えば、風車のブレードの受風面積を増やし、大きな翼を用いることでより多く発電できれば、系統連系により適していることになります。太陽光発電の設計でも、パネルの角度を変えるなど設置の方向やモジュール容量に対するインバータ容量の比率を考慮し発電量を増やすなどの工夫を行うことで、トータルでは発電量が増えることになります。予測技術が重要で、必要に応じてVRE出力を最大出力よりも低く抑制することで、極端な変動や発電出力が極端に大きい時間帯を回避することができれば、電力システムの総費用の最適化に向けた、コスト競争力のある道筋を見出すことができます。(図1参照)

図1)VREの導入が電力システムと調和していること 出典:the Power of Transformation

図1)VREの導入が電力システムと調和していること
出典:the Power of Transformation

(2)「電力システムと市場の運用が改善されること」のポイントは、既存設備を活用することです。最新の予測技術を活用した電力システムの運用改善を行うことが低コスト化につながります。市場の運用は、できるだけリアルタイムに近い取引を促進する必要があります。また利用可能な送電網の容量を最大活用するために、地点によって電力価格を変えることが認められるべきだとしています。市場の運用改善例として、2010年のテキサス電力信頼度協議会(ERCOT)による地点別(nodal)価格の採用、ドイツの電力の15分単位の取引などが挙げられています。さらにシステムサービスの信頼性に触れ、システムサービス市場は、短期の需給調整(市場)を含め、まだ開発されていませんが、市場機能は、システムサービス市場における取引をリアルタイムに近づけることで改良が図れるとしています。また、日本のように短期の電力市場が導入されていない国であっても、VRE発電予測技術の導入と、連系された需給エリアの協力の改善により、システム運用の改善は可能であることも言及しています。(図2参照)

図2)電力システムと市場の運用が改善されること

図2)電力システムと市場の運用が改善されること

(3)「追加的な柔軟性(需給調整対策)への投資」は、追加的な柔軟性への投資が、長期的には高いVREシェアを経済的に実現するために必要だということです。柔軟性(需給調整対策)向上の鍵は、以下の4つの技術となります。(図3参照)

グリッドなどのインフラ整備(需給調整エリア間の協力と統合)
水力や火力などの負荷配分可能(dispatchable)な電源の運用
蓄電池や揚水、水素などのエネルギー貯蔵
デマンドレスポンス(需要サイドが需要量を変動させて電力の需給バランスを一致させること)

図3)追加的な柔軟性(需給調整)対策への投資が行われること

図3)追加的な柔軟性(需給調整)対策への投資が行われること

 多くのOECD諸国の電力システムは成熟した電力システム(*電力需要の伸びが鈍化し、発電設備や送配電網インフラの交換の必要性が短期的にわずか、またはまったくないシステム)に属しています。成熟した電力システムへの導入補助などによるVREの急速な導入は、発電設備の過剰状態を作り出す傾向になることを指摘しています。過剰供給(既存の設備やVREの追加)は、特に既存設備の利用率が低い場合に卸電力市場価格を引き下げる傾向になり、価格低下は、発電設備の廃止のきっかけとなり、安定供給に懸念を提起することになります。こうした事象はスペイン、イタリア、ドイツなど多くの欧州市場で確認されています。報告書では、市場価格の低下は、供給過剰な市場であることを正しく知らせるシグナルであり、市場価格をより持続可能なレベルに戻すためには、受け入れられる余剰の実現と適切な市場設計を確保することが必要だとしています。また、電力システム改革のために既存設備の最大活用を追及すべきだとする一方、柔軟性の不足する電源で電力システムのニーズに対して余剰となっている設備の廃止や長期停止により、電力システムの変革を加速することができることを提言しています。

 日本には、欧州のような国際連携線がないなどの違いはありますが、電力システムの柔軟性の向上は、再生可能エネルギーの電力システムへの統合の鍵となります。この報告書は日本での議論にも有益だと思いますので、ぜひご一読ください。

◎「電力の変革」日本語版はNEDOホームページに配布されています。
http://www.nedo.go.jp/content/100643823.pdf