再生可能エネルギー大量導入時代の電力需給を考える(1)


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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(2)「電力システムと市場の運用が改善されること」のポイントは、既存設備を活用することです。最新の予測技術を活用した電力システムの運用改善を行うことが低コスト化につながります。市場の運用は、できるだけリアルタイムに近い取引を促進する必要があります。また利用可能な送電網の容量を最大活用するために、地点によって電力価格を変えることが認められるべきだとしています。市場の運用改善例として、2010年のテキサス電力信頼度協議会(ERCOT)による地点別(nodal)価格の採用、ドイツの電力の15分単位の取引などが挙げられています。さらにシステムサービスの信頼性に触れ、システムサービス市場は、短期の需給調整(市場)を含め、まだ開発されていませんが、市場機能は、システムサービス市場における取引をリアルタイムに近づけることで改良が図れるとしています。また、日本のように短期の電力市場が導入されていない国であっても、VRE発電予測技術の導入と、連系された需給エリアの協力の改善により、システム運用の改善は可能であることも言及しています。(図2参照)

図2)電力システムと市場の運用が改善されること

図2)電力システムと市場の運用が改善されること

(3)「追加的な柔軟性(需給調整対策)への投資」は、追加的な柔軟性への投資が、長期的には高いVREシェアを経済的に実現するために必要だということです。柔軟性(需給調整対策)向上の鍵は、以下の4つの技術となります。(図3参照)

グリッドなどのインフラ整備(需給調整エリア間の協力と統合)
水力や火力などの負荷配分可能(dispatchable)な電源の運用
蓄電池や揚水、水素などのエネルギー貯蔵
デマンドレスポンス(需要サイドが需要量を変動させて電力の需給バランスを一致させること)

図3)追加的な柔軟性(需給調整)対策への投資が行われること

図3)追加的な柔軟性(需給調整)対策への投資が行われること

 多くのOECD諸国の電力システムは成熟した電力システム(*電力需要の伸びが鈍化し、発電設備や送配電網インフラの交換の必要性が短期的にわずか、またはまったくないシステム)に属しています。成熟した電力システムへの導入補助などによるVREの急速な導入は、発電設備の過剰状態を作り出す傾向になることを指摘しています。過剰供給(既存の設備やVREの追加)は、特に既存設備の利用率が低い場合に卸電力市場価格を引き下げる傾向になり、価格低下は、発電設備の廃止のきっかけとなり、安定供給に懸念を提起することになります。こうした事象はスペイン、イタリア、ドイツなど多くの欧州市場で確認されています。報告書では、市場価格の低下は、供給過剰な市場であることを正しく知らせるシグナルであり、市場価格をより持続可能なレベルに戻すためには、受け入れられる余剰の実現と適切な市場設計を確保することが必要だとしています。また、電力システム改革のために既存設備の最大活用を追及すべきだとする一方、柔軟性の不足する電源で電力システムのニーズに対して余剰となっている設備の廃止や長期停止により、電力システムの変革を加速することができることを提言しています。

 日本には、欧州のような国際連携線がないなどの違いはありますが、電力システムの柔軟性の向上は、再生可能エネルギーの電力システムへの統合の鍵となります。この報告書は日本での議論にも有益だと思いますので、ぜひご一読ください。

◎「電力の変革」日本語版はNEDOホームページに配布されています。
http://www.nedo.go.jp/content/100643823.pdf