第2話「原子力の平和的利用」
加納 雄大
在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使
日本が原子力の平和的利用における途上国支援で積極的なのは、大きく以下の二つの理由が挙げられる。
一つは開発援助における日本の主導的役割という側面である。日本は長年にわたり、二国間協力(バイ)や国際機関を通じた協力(マルチ)を通じて、様々な分野で途上国支援をリードしてきた。前述の通り、原子力技術は保健医療、食料・農業、水・環境など、様々な開発課題への対処に貢献するものである。原子力大国である日本が、原子力の分野でその技術力、資金力を生かした途上国支援を行うことは自然なことといえる。
もう一つの理由は、前述の「原子力の平和的利用」と「核軍縮」、「核不拡散」とのリンケージである。軍縮・不拡散は、日本外交の重要課題である。しかし、核軍縮、核不拡散を進めるには日本一国だけでは困難である。出来るだけ多くの国々、とりわけ途上国を巻き込みながら、NPT体制を強化し、核軍縮、核不拡散に向けた大きな流れを生み出していかなくてはならない。そのためにも、より多くの国々がNPT体制のメリットとして「原子力の平和的利用」を享受し、そうした国々がNPT体制の維持、強化にコミットするような流れをつくる必要がある。
2月24日、ウィーンの日本政府代表部会議場において、日本政府代表部とブラジル政府代表部の共催により、原子力の平和的利用に関するシンポジウム(“Symposium on Peaceful Uses of Nuclear Science and Technology: Towards the 2015 NPT Review Conference and beyond.”)が開催された。本年4月からの2015年NPT運用検討会議や、9月の国連総会で採択される予定のポスト2015開発アジェンダ、新たな気候変動対処の枠組みの合意が見込まれる年末のCOP21を念頭におきながら、保健医療、食糧農業、水管理・海洋環境、エネルギーなどの分野で原子力技術が果たしうる役割について幅広く討議し、一般の理解を深めるために開催したものである。各国代表団やIAEA事務局、メディア、NGOなどから多数の参加があり、強い関心が伺われた。
このシンポジウムでの議論も踏まえながら、NPT運用検討会議に向けた具体的貢献として、日本政府としても、原子力の平和的利用の分野で目指すべき合意文書の素案を提出したところである。
原子力の平和的利用における課題
原子力の平和的利用には期待も大きいが、課題も多い。
各国が原子力技術にアクセスし、使いこなすためには、人材育成、関連国内法制度の整備が不可欠である。幅広い分野での原子力技術の応用を支える前述のIAEAのサイバースドルフ研究所は老朽化が進んでおり、ラボの改修のためのプロジェクト(ReNuAL: Renovation of the Nuclear Applications Laboratories)が進行中である。福島第一原発の事故は、途上国のみならず先進国も多くの課題を抱えていることを明らかにした。原子力安全と放射線防護を拡充することは、原子力の平和的利用における大前提である。そして、これらの課題に取り組むためには、十分なリソースが確保されなくてはならない。
国際社会としてこれらの課題にどう取り組んでいくか。日本はいかなる貢献をしていくべきか。本年4月27日からはじまる2015年NPT運用検討会議では、この問題が大きなテーマの一つになると思われる。
(*本文中意見にかかる部分は執筆者の個人的見解である。)
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- 日本政府関連
(2月24日開催原子力の平和的利用に関するシンポジウム)
http://www.vie-mission.emb-japan.go.jp/itpr_ja/peacefulusesPR_ja.html
(IAEAによるエボラ出血熱対策への資金拠出)
http://www.vie-mission.emb-japan.go.jp/itpr_ja/ebolatc_ja.html
http://www.vie-mission.emb-japan.go.jp/itpr_ja/ebolaPR_ja.html - ○
- 国際原子力機関(IAEA)関連
(原子力の平和的利用全般)
https://www.iaea.org/publications/magazines/bulletin/56-1
(サイバースドルフ研究所)
https://www.iaea.org/publications/magazines/bulletin/55-2
(エボラ出血熱対策)