高レベル放射性廃棄物地層処分の処分地選定
科学的有望地提示の前に、その「選び方」についての対話を
堀越 秀彦
国際環境経済研究所主席研究員
昭和期の処分地選定のための調査等の動きを否定的に受け止めた地域もあるようだ。動燃は結局のところ処分予定地や候補地を具体的に選定していないのだが、調査等の各種の活動が「処分地にされてしまうのではないか」との疑念を誘発し、それが後まで尾を引いた形跡が、地方議会の議事録や報道等に残されている。
例えば、動燃人形峠事業所(現在の人形峠環境技術センター)が立地する岡山県では、昭和50年代の企業による荒戸山(阿哲郡哲多町(地名は当時。以下同様。)周辺の土地買収と日本原子力産業会議との関係、昭和56~59年に山宝鉱山(川上郡備中町、成羽町)で原子力環境整備センター(当時)が行ったとされる調査・試験、昭和61年の久米町地下都市構想、昭和62年の動燃の津山地域での試掘権登録、昭和61年から63年までの動燃人形峠事業所への回収ウランの持込み、平成2年の久世町の開発計画「ワールドオアシス計画」、平成2年の動燃人形峠事業所での「環境資源開発部」(バックエンド部門)の設置等が、高レベル放射性廃棄物の処分地にされるのではないかの懸念を誘発し、地方議会(岡山県議会、津山市議会等)で質されたり、地方紙において報じられている。中には反対運動に結び付いたものもある。
これらは限られた議員の発言や、事実関係のはっきりしない報道もあり、中には事実無根のものもあるだろう。しかし、当時の調査等は特に地域住民への説明もなく、また処分地選定の手続も現在ほど明らかになっていなかったため、疑念が持たれるのも無理からぬところだ。そして、ひとたび疑念を抱かれてしまうとあらゆることが処分地選定と関連づけられてしまい、不信感や拒否感が増幅されるという現象は無視できない。実際、岡山県では平成2年に市民団体が高レベル放射性廃棄物持込拒否条例の制定を求めて直接請求したが、その際には34万人の署名が集められている。また、平成3年には県内旧湯原町では放射性廃棄物の持ち込み拒否に関する条例が制定されるなど、それなりの影響が生じている注1)。
平成14年以降の公募制の下で繰り返された地域での応募検討、批判、撤回というプロセスも同様で、応募が検討された高知県東洋町、鹿児島県南大隅町、鹿児島県宇検村等では、放射性廃棄物の持込の拒否等を定める条例が制定されている。
現在ほど情報公開やリスクコミュニケーションに意識が向けられていなかった昭和期はともかく、平成14年以降には、国や実施主体にも地域と対話(少なくとも「説明」)する姿勢があったにもかかわらず冷静な対話ができなかったことに注意が必要だ。おそらく、より大きな問題のひとつは、応募の検討や地質調査等が処分地選定プロセスにどう位置づけられるのかが認識されておらず、直ちに処分候補地にされるとの疑念を招いたこと、もうひとつは住民にとって「寝耳に水」であったことにあると思われる。
このふたつの問題のうち、直ちに処分候補地にされるという誤解を払拭する必要性は関係者によく認識されており、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会放射性廃棄物ワーキンググループ等でも議論がなされてきた注2)。科学的有望地の選定と処分地選定(文献調査)の関係は整理され、対話の準備がなされていくようだ。新しい基本方針においては「概要調査地区等の選定に向けた調査の段階から、多様な関係住民が参画し、最終処分事業について、情報を継続的に共有し、対話を行う場(対話の場)」が「設けられることが望ましい」とされており、地域での丁寧な対話の仕組みがビルトインされることも期待される。
とはいえ、もうひとつの問題、「寝耳に水」とならないための準備にも相当の注意を払う必要がある。とりわけ、現在想定されているような、はじめに科学的有望地を提示し、それから理解活動で納得を得るという手順には疑問を感じる。
今回も「寝耳に水」となれば、その時点で不信感と拒否感が形成され、せっかくの対話の仕組みも機能しなくなるおそれがある。地質等の調査や応募の検討が話題となった段階で冷静な対話が成立しない状況を招いた過去の事例を振り返ると、住民にとっては我が地域がある日突然俎上に上ること自体が問題であり、おそらくはそれが「科学的有望地」でも「処分候補地」でも大差はない。特定の地域が俎上に上った後で「直ちに処分候補地となるわけではない」と説明しようにも、既に対話が成立しない状況に陥っていては元も子もない。
- 注1)
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当時の岡山県の状況は(株)ノルド社会環境研究所「センター鉱山跡措置に係わる地域社会環境特性の把握」(平成16年3月)に詳しい。
http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JNC-TJ6420-2004-002.pdf (PDF: 15 MB) - 注2)
- http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/21.html