高レベル放射性廃棄物地層処分の処分地選定

科学的有望地提示の前に、その「選び方」についての対話を


国際環境経済研究所主席研究員

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 原子力発電の利用に伴って発生する高レベル放射性廃棄物の最終処分を計画的かつ確実に実施させるための国としての方針である「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」が改訂される。
 大きな変更点は、処分地選定に向けて従来のように市町村からの自発的な応募を待つだけでなく、国が科学的根拠に基づいてより適性が高いと考えられる地域(科学的有望地)を提示し、国が前面に立って重点的な理解活動を行ったうえで複数地域に申し入れるというものだ。また、全国的な理解醸成活動、各地域における多様な関係住民による情報共有、対話の促進に向けた支援等も盛り込まれている。このほか将来の廃棄物の回収可能性も言及されている。

 これまでの処分地選定は、平成12年に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき、平成14年より処分事業の実施主体(原子力発電環境整備機構(NUMO))が全国市町村を対象に、地層処分施設の設置可能性を調査する地域を公募するものだった(平成19年より国から自治体に申入れる方式を追加したが、申し入れは行われていない)。その間、いくつかの地域において応募が検討されたが、そのことが明らかになった時点で批判が起こり、断念するということが繰り返され、現在まで地層処分施設の設置可能性の調査は行われていない。

これまで応募が報道された地点

出典:総合資源エネルギー調査会 電気事業分科会 原子力部会 放射性廃棄物小委員会
(平成25年度第1回:平成25年5月28日)‐配布資料

 公募は地域の自発的な意思を重視する制度だが、応募はあくまで自治体内部の問題となり、当該自治体に内部調整の負担や説明の責任を担わせる面がある。また、処分地が科学的根拠によらず、政治的に決定されるのではないかとの懸念を生みやすい制度でもある。よって立地の問題のみに限定すれば、国が科学的根拠に基づいてより適性が高いと考えられる地域を提示するという方針転換は、地域の負担や将来のリスク低減の観点からは好ましいものと考えられる。

 ところで、国や研究機関が適地の選定に関与するということは目新しいことではない。 我が国では昭和51年に「地層処分に重点をおき研究開発を進める」ことが決定された。この頃の原子力白書(昭和52年版)には高レベル放射性廃棄物の処分は「国が責任を負うこと」と明記されており、その方針に基づいて動力炉・核燃料開発事業団(動燃)等が研究開発を行っていた。昭和60年10月8日「放射性廃棄物処理処分方策について」(原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会)(昭和59年の「中間報告」を踏襲)において、処分に向けての進め方は、第1段階「有効な地層の選定」、第2段階「処分予定地の選定」、第3段階「模擬固化体による処分技術の実装」、第4段階「実固化体処分」と整理された。そのうち、第2段階の処分地選定に関しては「処分予定地の選定は動力炉・核燃料開発事業団が電気事業者など関係者の協力も得て行うものとし、選定の結果については、国が所要の評価等を行って、その妥当性の確認するもの」とされていた。
 後に、昭和62年の原子力開発利用長期計画において処分予定地の選定は「別途設立される処分事業主体が行う」とされて動燃の役割ではなくなり、平成12年の「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」の制定により、実施主体(NUMO)が処分地選定を行うことが明確になって現在に至っている。

地層処分政策の変遷について

出典:平成17年3月30日「地層処分にかかわる調査報告書の公開について」核燃料サイクル開発機構
http://www.jaea.go.jp/jnc/news/press/PE2004/PE05033001/be.html

 昭和期の処分地選定のための調査等の動きを否定的に受け止めた地域もあるようだ。動燃は結局のところ処分予定地や候補地を具体的に選定していないのだが、調査等の各種の活動が「処分地にされてしまうのではないか」との疑念を誘発し、それが後まで尾を引いた形跡が、地方議会の議事録や報道等に残されている。
 例えば、動燃人形峠事業所(現在の人形峠環境技術センター)が立地する岡山県では、昭和50年代の企業による荒戸山(阿哲郡哲多町(地名は当時。以下同様。)周辺の土地買収と日本原子力産業会議との関係、昭和56~59年に山宝鉱山(川上郡備中町、成羽町)で原子力環境整備センター(当時)が行ったとされる調査・試験、昭和61年の久米町地下都市構想、昭和62年の動燃の津山地域での試掘権登録、昭和61年から63年までの動燃人形峠事業所への回収ウランの持込み、平成2年の久世町の開発計画「ワールドオアシス計画」、平成2年の動燃人形峠事業所での「環境資源開発部」(バックエンド部門)の設置等が、高レベル放射性廃棄物の処分地にされるのではないかの懸念を誘発し、地方議会(岡山県議会、津山市議会等)で質されたり、地方紙において報じられている。中には反対運動に結び付いたものもある。
 これらは限られた議員の発言や、事実関係のはっきりしない報道もあり、中には事実無根のものもあるだろう。しかし、当時の調査等は特に地域住民への説明もなく、また処分地選定の手続も現在ほど明らかになっていなかったため、疑念が持たれるのも無理からぬところだ。そして、ひとたび疑念を抱かれてしまうとあらゆることが処分地選定と関連づけられてしまい、不信感や拒否感が増幅されるという現象は無視できない。実際、岡山県では平成2年に市民団体が高レベル放射性廃棄物持込拒否条例の制定を求めて直接請求したが、その際には34万人の署名が集められている。また、平成3年には県内旧湯原町では放射性廃棄物の持ち込み拒否に関する条例が制定されるなど、それなりの影響が生じている注1)
 平成14年以降の公募制の下で繰り返された地域での応募検討、批判、撤回というプロセスも同様で、応募が検討された高知県東洋町、鹿児島県南大隅町、鹿児島県宇検村等では、放射性廃棄物の持込の拒否等を定める条例が制定されている。

 現在ほど情報公開やリスクコミュニケーションに意識が向けられていなかった昭和期はともかく、平成14年以降には、国や実施主体にも地域と対話(少なくとも「説明」)する姿勢があったにもかかわらず冷静な対話ができなかったことに注意が必要だ。おそらく、より大きな問題のひとつは、応募の検討や地質調査等が処分地選定プロセスにどう位置づけられるのかが認識されておらず、直ちに処分候補地にされるとの疑念を招いたこと、もうひとつは住民にとって「寝耳に水」であったことにあると思われる。

 このふたつの問題のうち、直ちに処分候補地にされるという誤解を払拭する必要性は関係者によく認識されており、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会放射性廃棄物ワーキンググループ等でも議論がなされてきた注2)。科学的有望地の選定と処分地選定(文献調査)の関係は整理され、対話の準備がなされていくようだ。新しい基本方針においては「概要調査地区等の選定に向けた調査の段階から、多様な関係住民が参画し、最終処分事業について、情報を継続的に共有し、対話を行う場(対話の場)」が「設けられることが望ましい」とされており、地域での丁寧な対話の仕組みがビルトインされることも期待される。

科学的有望地の位置付け

出典:総合資源エネルギー調査会放射性廃棄物ワーキンググループ第12回会合(平成26年10月23日)資料2

 とはいえ、もうひとつの問題、「寝耳に水」とならないための準備にも相当の注意を払う必要がある。とりわけ、現在想定されているような、はじめに科学的有望地を提示し、それから理解活動で納得を得るという手順には疑問を感じる。
 今回も「寝耳に水」となれば、その時点で不信感と拒否感が形成され、せっかくの対話の仕組みも機能しなくなるおそれがある。地質等の調査や応募の検討が話題となった段階で冷静な対話が成立しない状況を招いた過去の事例を振り返ると、住民にとっては我が地域がある日突然俎上に上ること自体が問題であり、おそらくはそれが「科学的有望地」でも「処分候補地」でも大差はない。特定の地域が俎上に上った後で「直ちに処分候補地となるわけではない」と説明しようにも、既に対話が成立しない状況に陥っていては元も子もない。

注1)
当時の岡山県の状況は(株)ノルド社会環境研究所「センター鉱山跡措置に係わる地域社会環境特性の把握」(平成16年3月)に詳しい。
http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JNC-TJ6420-2004-002.pdf (PDF: 15 MB)
注2)
http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/21.html

 この問題はなかなか難しい。高レベル放射性廃棄物に対する国民の認知は高まってきており、処分の必要性も認識されつつあるとはいえ、多くの国民にとって地層処分は他人事であり、国や実施主体が情報を発信してもなかなか意識に残らない。それを国民の立場から言えば「知らされていなかった」ということになる(いささか勝手だが、そういうものだ)。それでいて、どうしても特定の地域名を“初めて”目にする瞬間がある。その瞬間に当該地域の選定が妥当なものだと認識されなければ冷静な対話は難しいだろう。そのためには選定手続の公正性と科学的適切さを確保し、あらかじめ理解と納得を得る必要がある。よって、特定の地域を示す“前に”、科学的有望地の「選び方」について、よくよく国民と対話することを推奨したいというのが本稿の主張である。
 この点、平成26年12月より、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 地層処分技術ワーキンググループ注3)が再開され、科学的有望地について検討されている。そこでは、何に対する適性をもって科学的有望地とするのか、使用するデータはどのようなものであるべきか、適性の高低をどのような要件・基準で判断するのかなど、「選び方」に関する事項が詳細に検討されている。特定の地域を示す前に、ここでの議論の内容や検討結果を世に問うことが、その後の冷静な対話に役立つだろう。

追記

 地層処分の分野に限ったことではないが、リスクに係る一般向けの広報素材は、往々にしてリスクの説明よりも対策の説明ばかりに重きが置かれ、かえって理解しづらい部分があった。(例えば、地下水による放射性物質の移行(地下水シナリオ)をよく説明せずに、ベントナイトの遮水性や吸着性ばかりを説明してしまう等)
 地層処分技術ワーキンググループでは、最終処分施設に求められる地質環境特性についても議論されているのだが、そこでは「想定されるリスク」をスタートラインとして、そこから要件、基準等が考察されている。議論は専門的ながら、筋道がわかりやすい。このようなロジックを咀嚼し、一般向けの広報においても活用すべきであると感じた。

安全性確保に関する要件

出典:総合資源エネルギー調査会地層処分技術ワーキンググループ第12回会合(平成27年3月24日)資料
「前回までの地層処分技術WGの議論の整理と主な論点(案)」

注3)
http://www.meti.go.jp/committee/gizi_8/21.html

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