放射線と放射性物質(その5) 放射線の利用と被ばくの管理


国際環境経済研究所主席研究員

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(前回の解説は、「放射線と放射性物質(その4) 被ばくを防ぐ」をご覧ください)

9.放射線・放射性物質の利用

 私たちが健康で豊かな生活を送るために、いかに数多くの放射線技術が利用されているかについて簡単に紹介する。健康診断などでおなじみの胸部X線撮影など、主なものは以下の通りである。
 わが国の食品衛生法では、ジャガイモの発芽止めを目的とする照射以外の放射線利用は認められていない。海外では50ヵ国以上で香辛料やハーブなど他の食品の殺菌消毒にも放射線照射が利用されているが、わが国ではそれらの照射済食品の輸入も認められていない。

 腸管出血性大腸菌O-157汚染で起きるユッケやレバ刺しなどの生食による食中毒問題も、放射線照射による殺菌で解決すると言われており、米国ではハンバーグの食中毒事故をきっかけに米国食肉協会の申請を受けてFDA(Food and Drug Administration=アメリカ食品医薬品局)が97年に牛肉への放射線照射を認めている。コバルト60によるγ線照射量は2,000~2,500Gy(グレイ)とのことである。牛レバ刺しの生食提供が禁止になったが、厚生労働省は安全に食べられる方法が見つかれば規制の見直しを検討するとしており、食品衛生法11条の見直しが検討される可能性がある。

図1

10.被ばく線量制限

1) 法による被ばく制限
 放射線や放射性物質が様々な用途で利用される時代になり、不用意な被ばくによる健康被害を起こさないように法律による規制が行われている。放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和32年6月10日法律第167号)である。それに基づき、放射線を扱う事業者は放射線に関する専門知識を持ち国家資格を有する者を取扱主任者として選任して管理体制を整備し、一般従業員の被ばくを防ぐとともに作業従事者の被ばくの管理を行う義務がある。

 被ばく線量は国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づいて限度を定めている。人体の修復機能で健康状態を維持できる範囲では被ばくの影響は出ないとされており、それがICRPおよび法による被ばく規制の根拠になっている。
 最新の規制値を以下の表に示した。原子力発電所や非破壊検査会社、その他の放射性物質を取り扱う事業所などで、放射線を浴びる可能性のある業務に従事している男性の被ばく線量限度として、年間最大50mSv、5年間で100mSvを超えてはならないこと、また、皮膚や水晶体、妊娠の可能性のある女性、妊娠中の女性の腹部はそれぞれ別に線量限度が決められている。

図2

 余談であるが、その3で触れた古川聡宇宙飛行士は法による限度を大幅に超えているはずである。日本人宇宙飛行士の被ばくは放射線障害防止法の対象ではなくJAXA(独立行政法人宇宙航空研究開発機構)が別途管理している。
 被ばく限度は年齢および性別で異なり、初めて宇宙飛行をする年齢が27~29歳の場合には生涯実効線量で600mSvまで、30代前半の場合は男性が900mSv、女性が800mSvまで、30代後半は男性1,000mSv、女性900mSv、40歳以上の場合は男性1,200mSv、女性1,100mSvとなっているそうである。なお一般人の生涯実効線量は平均寿命80年として医療被ばくを除き200mSv程度である。

 福島で事故処理作業をしている企業の役員が、作業員の装着するポケット線量計を鉛のシートで遮蔽し線量記録を少なくしていた問題が発覚しているが、作業者の健康にかかわりかねない重大な違反であり、あってはならないことである。人員不足が原因のひとつかもしれないが、問題の背景に何があるのか他の企業は大丈夫なのか十分に調査をする必要がある。