わが国の中長期的(~2050年)電源構成の在り方
- 自由化のリスク低減、3つの60% -
田下 正宣
エネルギーシンクタンク株式会社 代表
4.各種電源の特徴
- i.
- 石炭火力は投資資本が大きく、燃料費が安い。CO2排出量は化石燃料中最大。ベースロード電源に適している。
- ii.
- 天然ガス火力は建設期間が短く、投資資本も小さいが、燃料の天然ガス(NG)は輸送コストが高く、わが国は米国の4$/mbtuに比較し12~18$$/mbtu と4倍程度高いため相対的電気代が国際的に高くなり産業の国際競争力を弱める。過度な依存は避けるべきである。
- iii.
- 原子力は投資資本が大きく、燃料費は安い。CO2排出量はほぼ0である。ベースロード電源に適している。なお原発の安全性確保に格段の努力が必要で現場主義による事業者の技術、管理だけでなく、政府含めた原子力損害賠償法改定、避難計画・訓練の実施など制度の確立などが求められている。また建設計画から稼働、廃炉に至るまで60~80年を要するため経営の長期安定性が求められておりフランスの様な準公営的経営形態は一つの方向性である。
なお核のゴミ処理発電プラント注2)(FFR(Fast Flexible Reactor)により30万年を1000年程度に放射能レベルを低減する方策)は技術的には見通しが有り今後の実用化が期待される。 - iv.
- 再生可能エネルギー(RE)は種々あり特性は大幅に異なる。
- (1)
- 水力発電は大型の既存の設備が多数あり今後とも適切な保守点検により維持する。水力は発電だけでなく国土保全と言う機能を有する方式であり優先度は非常に高く、加えて負荷追従性の優れており電源としての利用価値は大きい。加えて小型の水力発電も超小型を含め地産地消的な利用法の拡大の意義は大きい。
- (2)
- バイオマス発電はバイオマスには木質系と糞尿のメタン系があり、ともに小型であるが地域雇用の創出とまた地産地消エネルギーとして地域経済の活性化に寄与する。特に木質系バイオ発電は間伐材の放置問題など森林再生に寄与する。
従来生産性に低さが問題であったが3m3/人・日を10~20m3/人・日に改善する方策と機械の導入、搬出林道の整備により発電コストも20円/KWh以下に改善され見通しがある注3)。木質系バイオ発電のポテンシャルは400~500億KWh/年程度が見込まれる。なお林業は60年オーダーの長い期間で事業が成立する点に格段の配慮が求められる。また治山治水の観点からも優先的に実施しすべきである。 - (3)
- 太陽光発電(PV)と風力発電は発電量が気象に強く依存し不安定で大量に導入すると電力網(grid)の変動を招く。太陽光・風力発電は初期投資が大きく、稼働率は12%程度と低い。燃料費がタダの利点はある。保守補修費程度で雇用効果は小さい。10~20%程度までであれば出力変動に追従の良い火力発電で補えるがそれ以上になると蓄電池が必要でコストが大幅に上昇するため20%以下に抑える。
今後技術進歩により大幅なコスト削減が出来る可能性もある。その時は当然ながらシェアを大きくする。
この際電力利用以外輸送用エネルギー源として電気自動(EV)用、水の電気分解による水素燃料電池車(FCV)用に用いる方策は、わが国として輸入エネルギー依存のリスク低減とCO2排出量削減の観点から有望な政策である。 - (4)
- 地熱発電及び潮流発電はポテンチャルは大きいが適地が限られており、量的に多くを期待できない。しかし地産地消電力源としての意義はある。
5.2050年の電源構成の一例(表-1参照)
- i.
- 各電源の特性を踏まえ上記方針に従うと、方針-1からREと原発で約60%、方針-2から石炭火力と原発で約60%、方針-3からREと原発で約60%となる。
- ii.
- 具体的には、石炭火力約30%(一部木質系バイオマスとの混焼も可能)、LNG火力約10%、原発約30%、RE約30%が一つの例である。(表-1参照)以下に簡単に構成に関し考察する。なお2050年時点での電力需要は人口が1億人、一人当たりの年間電力消費を8000KWh(現状と同じ)と想定し総発電量約8000億KWhとする。
- iii.
- 石炭火力は2400万KWhで現状とあまり変わらない。石炭火力はCO2排出量が多いことが危惧されるが資源は多国に分布し価格変動も相対的に小さく輸入資源中安定性、エネルギー安全保障上わが国にとって意義は大きい。
また石炭火力技術は世界のリーデング国であり発電プラントの輸出、技術協力などの分野でも有望である。
特に今後低品位炭の石炭ガス化発電所(IGCC)での利用と低品位炭サプライチーンの確立はする構想は、1970年代にLNGのサプライチェーンを日本が世界に先駆け安定成長の基盤を築いたと同様な役割を果たすことが期待される。これはわが国だけにとどまらずアジアの途上国でもエネルギーの価格と安全保障の面から重要な役割を果たすと思われる。- 注2)
- IEEI HP 2014-02-26「核のゴミ処理」の可能性(その1)
2014-03-04「核のゴミ処理」の可能性(その2) - 注3)
- IEEI HP 2013-05-29「石炭・木質系バイオマス混焼炊が日本を救う」
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