成長と環境のジレンマ
小谷 勝彦
国際環境経済研究所理事長
このテーマは、我々先進国がかつて直面したテーマだ。
1970年代以降、日本企業は公害問題を克服するために膨大な環境・省エネ投資を行ったが、一方で製品・製造プロセスの技術革新による国際競争力の強化で、成長と環境のジレンマを解決してきた。
現在、中国では、PM2.5問題を契機に、環境問題が大きな関心事になっている。
APEC開催期間中、北京周辺の工場を休止したり、自動車の流入規制を行ない、“APEC Blue”といわれた青空を実現したことはTV報道でも大きく取り上げられた。
従来、中国の各省長、書記の人事評価基準は、GDP成長一本槍だった。最近は、環境対策も評価に加わったことから、人事の季節である来年春の全国人民代表会議を迎えて、各省の幹部達は苦悩し始めている。
全国第一位の鉄鋼生産、第二位のコンクリート生産を誇る河北省省長の張慶偉は「今年の冬と来年の春の大気汚染が深刻化しており、来年3月の全国人民代表会議で皆に合わせる顔がない。一方で、汚染企業に対して生産停止を命じたことで河北省のGDP成長が減速し、河北省の人民代表会議でどう弁明するか苦悩している。」という。(中国経営報、2014.10.20)
河北省の経済成長は、鉄鉱石や山砂利採取のために山を取り崩し、膨大な鉄鋼やコンクリートを生産することで成し遂げられたが、反面、膨大なエネルギー消費と環境汚染をもたらした。私が北京にいた2000年代後半、高速道路沿いの山が一か月後には消えてなくなっているのに驚いたことがある。
この結果、河北省に取り囲まれた北京、天津は全国でも最も環境汚染が深刻な地域になっている。北京のPM2.5悪化の要因は、北京市自体の自動車排気、石炭燃焼、工業汚染、市内で飛散する塵に加えて、河北省などの周辺地域からの汚染物質の飛来が25%ほど占めるといわれている。(連合鋼鉄HP、2013.12.12)
また、鉄鋼企業が集積する河北省唐山市は、大気汚染が全国一ひどい都市という有り難くもない評判を取っている。
河北省は、企業に対して老朽設備の廃止や環境設備の設置を指導しているが、この数年の経済の低迷で企業の体力も弱っている。
このため、除塵装置が故障したり、有っても動かさないという違法行為に対して、地方政府も黙って見過ごしている例もあるという。
2014年上半期の河北省のGDP成長は前年比5.8%であり、全国平均の7.4%よりもかなり下回っている。経済の落ち込みは雇用、財政、社会問題に繋がることから、河北省にとって由々しき問題である。
資源多消費型の経済発展を目指してきた河北省などの地方経済にとって、経済成長と環境問題のジレンマの解決は容易ではない。