水素社会を拓くエネルギー・キャリア(2)
日本のエネルギー・環境制約と水素エネルギー(その1)
塩沢 文朗
国際環境経済研究所主席研究員、元内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」サブ・プログラムディレクター
2050年の日本のエネルギー需給の姿については、現時点で公的な見通しは存在しない。これに関しては(財)日本エネルギー経済研究所が行った試算注7)が見当たる程度であるが、詳細が公表されていないため、試算結果を示すグラフ等から数値を読み解くなどによって、日本のエネルギー需給の姿を推定せざるを得ない。そういった制約の下ではあるが、2050年における日本の1次エネルギー供給構造の姿を推計してみると、再生可能エネルギーによる発電量の比率を2050年までに2010年の約2倍の25%に増やし、省エネルギーをさらに10%程度進め、発電量の10~15%程度を引き続き原子力発電に依存するという対応を行ったとしても、2050年において、なお1次エネルギー供給の8割を化石燃料に依存するという日本の姿が見えてくる。
この結果から見えてくることは、この程度の再生可能エネルギーの導入の拡大では2050年になっても化石燃料への依存を大きく減じることはできないということだ。もし原子力エネルギーへの依存をもっと減らそうとするなら、エネルギー源は化石燃料、原子力エネルギー、再生可能エネルギーの3種類で構成されるので、一層大量の再生可能エネルギーの導入を図る必要がある。CO2排出量については、化石燃料に1次エネルギー供給の8割を依存するという状況では、2050年までに排出量を50~80%という規模で削減することは到底できない。
こういった状況を打開するために、日本は2050年に向けて大量の再生可能エネルギーを導入する必要がある。しかし、再生可能エネルギーを一次エネルギー供給の数十%を占めるほど増やすことは容易なことではない。例えば、2030年までに太陽光発電の設備容量が2005年比の40倍、風力発電のそれが同10倍に増加したとしても、2030年において一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合は4%増加する程度のインパクトにとどまるからだ注8)。
それでは、どのようにしたら大量の再生可能エネルギーを日本は導入することができるか。しかも安価に。それが今後の日本のエネルギー問題の重要な課題となる。
- 注7)
- この試算では2050年までの経済成長率約1%/年、2050年の人口約110百万人、原油価格の130$/BBL程度までの上昇等のマクロ経済環境に関する仮定がおかれている。
- 注8)
- 2014年9月10日の総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会の資料4「再生可能エネルギーの導入量等に関する検討」等の資料をもとに筆者が推計。