原子力問題の今 -課題と解決策-(その2)
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
自分たちは大した影響をもたらさない、大した問題ではないと思ってやっていることも、その一挙手一投足が、世間の目にとっては非常に脅威に映っている可能性がある。したがって、不祥事やスキャンダルがあれば、自浄能力の高さを示すことが他の組織体よりも圧倒的に重要になりますし、またそうしたことを起こさないための自制心の強さをきちんと外に見えるように示さなければなりません。
最後に、経済的な面以外のナショナルセキュリティ、要するにエネルギーセキュリティについて実感を持っている人が以前に比べ極めて少なくなってきています。これが原子力の必要性をリアルに感じない原因の一つになっているような気がします。私が役所に入ったのは1981年で、第二次オイルショック、スリーマイル事故の後で、北炭の夕張の落盤事故があり、エネルギーの量的な不足を真剣に心配した時代です。実際に行政をやっていた人たちは、パニックというか、ぎりぎりのところで仕事をしているというのが実感としてありました。それよりも前の第一次オイルショックの73年はもっと大変な状況だったと思います。
ところが、今ではむしろ福島第一原発事故がその原体験となっている行政官が多くなってきています。一方、ここ最近は、幸か不幸か電源多様化などのエネルギー政策が順調だったために量的なパニックは起きなかったわけです。量が足りなくなったときの社会のパニックは実際に起こり得るんだということを知っている世代はどんどん現役を離れていってしまう。
最近では原子力の問題と言えば、安全性の問題以外では、高いのか安いのかみたいな話ばかりしています。もちろん原子力自体の発電コストがどうかという論点もあるのですが、原子力を国として維持していることが、化石燃料の調達をやりやすくするための政治的・外交的交渉力になるという点にもっと注目すべきでしょう。その意味で量的な面での安定供給も確保できるためのカードになり得るということを、国民の利益として享受しているのですよということを、どうすれば実感をもって説明できるか。これができないと私は原子力にはなかなか国民のサポートは戻ってこないと思います。