地球温暖化対策の不要が、
「脱化石燃料社会」への途を開く

-ポスト京都議定書の国際協議に向けて-


東京工業大学名誉教授

印刷用ページ

 いま、ポスト京都議定書の国際間協議の場で、各国の割り当て量を決めることができないのは、この表1に示すような各国の人口当たりの排出量を等しくしたCO2排出削減率目標を設定した場合には、アメリカをはじめとする大きな削減率を強いられる先進諸国が、自国の経済成長を維持するために、その削減の義務を途上国の排出削減で代替する国際間排出権取引に求めて、金銭的に解決しようとするためである。これでは、途上国と先進諸国との経済的な利害関係が真向から対立するから、いくら会議を重ねてみても妥結に至るのはどだい無理な話である。日本は、それを二国間の協議で賄うことを提案しているようだが、これも、全ての国の同意を得られなければ効果はないと考えるべきであろう。

化石燃料消費の節減であれば国際間協力は可能になる

 ところで、はじめにも述べたように、いま、文明社会にとっての恐怖は温暖化ではなく、エネルギー資源としての化石燃料の枯渇だとすれば、全ての先進国と途上国が協力して化石燃料消費の節減に努めれば、今後、予想される化石燃料の国際貿易価格の上昇を少しでも抑えることができるはずである。各国の化石燃料資源の保有量を比較するために、その可採年数R/P(確認可採埋蔵量Rの値を生産量Pで割った値)を表2 に示した(文献4から)。ただし、確認可採可採埋蔵量Rの値は、業界が燃料を高く売りたいとして恣意的に操作するから、このRの値、したがって、R/Pの値は世界各国の2011年の時点でのエネルギー資源としての化石燃料の保有量を比較するための大凡の目安を示す便宜的な指標と考えられたい。

表2 各国の化石燃料の可採年数 R/P(年、確認可採埋蔵量R を生産量Pで割った値)

(BPによる2011年末の値(文献4から))

注:空欄は記載なし
 

 この表2に見られるように、各国の化石燃料資源の保有量には大きなばらつきがあるが、世界中が協力して化石燃料消費量の削減に努めなければ、化石燃料の国際貿易価格が高騰して使えなくなる日が今世紀中にやってくることは確実と言ってよい。その時に、大きな経済的な影響をまともに受けるのは、エネルギー資源の殆どを輸入に依存している日本である。少しでも、その時を遅らすための国際協力にリーダーシップをとることこそが技術立国日本の責任と考えるべきである。
 具体的な方法として、先ず、日本の優れた省エネ技術を途上国に移転することを考える。現在、電力生産の手段として、世界で最も多用されている石炭火力発電での、平均発電効率42 .4 %(世界平均は 35.0 % 、IEAのデータ(文献4)をもとに私が計算した値)の日本の石炭火力発電の技術を、世界に、特に途上国に移転すれば、途上国も経済的利益が大きいから喜んで協力してくれるはずである。次いで、少し先の話になるが、化石燃料の枯渇が近づき、石炭火力発電のコストに較べて、自然エネルギー(国産の再生可能エネルギー)利用の発電のコストがより安くなれば、その種類を選んで使用する方法を普及させるなど、市場経済原理に従ったエネルギー政策の選択での国際協力を行うことができる。
 このような、化石燃料消費の節減を、温暖化対策としてのCO2排出削減のための各国の排出割り当てを決めるポスト京都議定書の協議の場にもちこむ場合には、その節減目標値に義務を設けず、自主努力を強調するコペンハーゲン合意に従ったものとすることで、全ての国に受け入れて貰えるはずである。