出力変動制御と電気温水器


YSエネルギー・リサーチ 代表

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 米国では貯湯式電気温水器が5千万台ほど利用されている。一基の消費電力は5キロワットほどだが、これまでにも電力供給事業者が電力のピーク需要を抑制する(デマンドサイド・マネジメント)目的で、利用者の了解を得た上でピーク時に温水器のヒーターのスイッチが入らないように制御する事例が増えていた。電気空調機の稼働制御と同じ効果を出すことができる。最近、この電気温水器を、風力発電や太陽光発電の余剰出力を吸収、すなわち、一種の蓄電機能を持たせようとする実証試験が各地で行われ始めている。風が強かったり、快晴であったりして、規模の大きな自然エネルギー設備がフル稼動すると、その出力が周辺の電力需要を上回り、送電系統の容量にその余剰分を遠隔地に送電するだけの余裕がない場合には、発電設備を停めなければならなくなる。
 風力と太陽光発電の設置規模が急速に増大している米国では、このような出力変動への対応が難しくなっているために、たとえばカリフォルニア州に見られるように、電力供給事業者に蓄電設備の設置を義務づける方向に向かっている。これまでは、水力発電所の揚水、空気の高圧圧縮、さらには大型蓄電池といった手法が採用されていたのだが、そのコストの増大が課題となっていた。そこで着目されたのが全米に普及している貯湯式電気温水器の利用である。電力供給事業者なり系統管理者がスマートメーターなどの通信方式を経由して、電気温水器のスイッチのオン・オフをすることができるようにして、余剰電力が出ればオンにして消費させることで、自然エネルギーの余剰を有効に使えるようにするのである。それに必要な付加設備の所要コストは20ドルほどで、底に溜まっている温度が低い水を加熱する方式にしてシャワーの温度が急に上がったりしないようにもなっている。この制御効果を目的にして,電気温水器を大量にリースする電力事業もあるようだ。
 この制御装置取付のためには多数の電気給湯器ユーザーの合意を得ることが必要となる。この交渉を電力供給事業者が行うケースに加えて、系統管理者が必要とする電力消費量を確保することによって、系統安定化(アンシラリー)サービスとして売る取りまとめ事業者(アグリゲーター)も登場している。当然のことながら、全体の設備を統合して制御する通信設備や制御プログラムの開発も必要で、この分野のベンチャーも生まれ始めた。電気温水器は10~15年で新しいものに取り換えるのが普通のようで、年間の取り換え需要も安定的に大きいことから、新規製品にはこの制御が最初から組み込まれたものも出始めているという。新しい市場が生まれたと言えるだろう。
 このような貯湯式電気温水器を使った自然エネルギーの変動抑制を日本で実施できるかを考えると、現在設置されている電気温水器の数が限られているために無理だろう。しかし、業務用、工業用部門には大量の温水を使うところも多いから、規模の大きなボイラーの給水系統に余剰電力を消費させる予熱設備を追加することは想定できるし実現可能だろう。余剰電力の消費能力は大きいが、単純な機構の設備になるはずだからコスト的にも大きな障壁にはならないのではないか。そして、既存のボイラーで消費される化石燃料の消費を削減する効果も生まれる。検討してみる価値はないだろうか。

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