私的京都議定書始末記(その41)
-土壇場の調整-
有馬 純
国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授
デ・アルバ大使の調整
9日の午前中も、結局、予定されていた京都議定書とアンカリングに関する非公式コンサルテーションは行われないままだった。昼過ぎに再々度行われたエスピノーザ議長主催の非公式コンサルテーションで、英国のヒューン大臣は前日の文案をそのまま議長国メキシコに提出したいとの発言があった。COP16最大のイシューが、議長国メキシコ自身の調整に委ねられたのである。エスピノーザ議長はデ・アルバ大使が共同ファシリテーターと協議し、その結果を報告するようにと指示した。
非公式コンサルテーションが終わるか終わらないかのうちに、メキシコ側からデ・アルバ大使による調整が行われるので指定された部屋に来て欲しいとの声がかかった。大会議室ではなく、ホテルの中の部屋である。いよいよ土壇場の文言調整を少人数で行うのだ。日本からは外務省の杉山審議官を代表に環境省の森谷審議官と私、更に外務省から関口交渉官が随行した。9日午後3時過ぎに指定された部屋に行って見ると、メキシコのデ・アルバ大使、英国のヒューン大臣、ベッツ局長、ブラジルのマシャド局長、米国のスターン特使、ドイツのザッハ次長、欧州委員会のルンゲメツカー局長、ロシアのシャマノフ交渉官、豪州のコンベ大使、中国の蘇偉(スーウェイ)局長、インドのグプタ大使、南アフリカのウィリス交渉官他、マーシャル諸島、エジプト、ベネズエラ、コロンビアから錚々たる面々が集まっている。この面々でドラフティングを行うのだ。この時、その他の論点(緩和/MRV、適応、資金・技術・キャパシティビルディング、共有のビジョン)についても同時並行的に少人数会合が行われていたに違いない。
協議のベースとなったCOP決定、CMP決定案を以下に示す。
COP
- ①
- Calls for the conclusion of an agreed legal outcome under the Bali Action Plan as soon as possible;
- ②
- 1bi: Takes note of quantified economy wide emission reduction targets to be implemented by Annex I Parties as communicated and contained in document FCCC/KP/AWG/2010/INF 2 and in document FCCC/LCA/AWG/2010 INF X;
- ③
- 1bii: Takes note of nationally appropriate mitigation actions by non-Annex I Parties to be implemented as communicated and contained in document FCCC/LCA/AWG/2010 INF Y;
1bi、1bii とは、バリ行動計画のパラ番号であり、前者は先進国の緩和目標、後者は途上国の緩和行動を指す。FCCC/KP/AWG/2010/INF 2 が、AWG-KPで作成された京都議定書締約附属書Ⅰ国の中期目標をとりまとめたペーパーであり、FCCC/LCA/AWG/2010/INF X は京都議定書に参加していない米国の中期目標を記載したペーパー(新規に作成)、FCCC/LCA/AWG/2010/INF Y は途上国の緩和行動をとりまとめたペーパー(新規に作成)のことである。