オバマ政権の環境・エネルギー政策(その16)

下院では環境保護急進派ワックスマンとマーキーが法案提出 2020年17%削減公約へ


環境政策アナリスト

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 排出量枠についてはこう規定する。当初案にはオークションにするのか無償割当にするのか、明示されていなかったが、最終案では85%のキャップ&トレード対象分全部を無償割当てとし、その後、無償割当分を漸減していき、2030年には100%オークションにする。電力については総排出枠の43.75%が割り振られた。ここで興味深いのは、電力会社に対する再生可能エネルギー導入義務(RPS)と同時にエネルギー効率改善義務も盛り込まれたことだ。RPS目標達成のためにエネルギー効率改善のクレジットを使うことを認め、両方を合算して義務を満たすことを求めていている(合算値で2012年6%、2020年20%、2025年25%)。即ち2025年において、仮に目標が達成されそうもなくRPSが12%となりそうな場合は、エネルギー効率改善目標を8%に引き上げればよいというものである。米国の電気事業者協会「エジソン電気協会」(EEI)はエネルギー効率改善目標が需要家の努力に属するものであるとして「RPSは仕方がないもののエネルギー効率改善義務はなんとか阻止したい」と反対していたが、法案はこれに対して双方の目標を結合させることで、エネルギー効率改善義務を盛り込んでおり、その点が巧みなところだ。
 エネルギー効率改善目標について付言すると、このアイデアも、すでに紹介したアメリカ進歩センターが2007年11月に発表した報告書「エネルギーチャンスをとらえて-低炭素経済の創造」に由来しており、「国家エネルギー効率資源基準」として盛り込まれていた。ここでは2020年までに電気・ガスの使用量を10%削減するとしていた。ワックスマン・マーキー法案では削減量は標準5%、RPSとの組み合わせで20%としている。エネルギー効率改善目標は自然体ケース(business as usual)からの削減としており、電力会社に大きな役割が求められるとされている。ただし、自然体ケースをどう決めるかは今後の連邦エネルギー規制委員会にゆだねられることに成っており、結果的に詳細はつまびらかにはならなかった。エネルギー効率目標を達成するためには、省エネ努力による以外、1キロワット時あたり1.5セントを支払うか、再生可能エネルギークレジットを調達するかを選択できる。しかし、達成ができない場合は、1キロワット時あたり5セントの支払いを含む厳しい措置が待っている。電力会社そのものに省エネを義務付けようとしたことがどこまで有効なのか(需要家に直接的な需要抑制の働きかけを想定しているのか、電力会社自身が行うのか)、「自然体ケース」をどのように定義するのか、多くの疑問が残った。
 新設石炭火力については、CCS技術導入を前提とした原単位規制、エネルギー原単位2030年まで年率2.5%以上改善を盛り込んでいる。
 海外オフセットとしては、年間オフセット利用可能量20億トンのうち海外オフセットを10億トン、(もし国内の農業関連オフセットに限界があると認められた場合)最大15億トンを認めている。これは日本の年間排出量の約13億トン(2007年)を超える大きな量だ。森林減少・森林劣化の防止による排出削減(REDDと呼称)、セクター・ベイスト・クレジット(セクター単位でベースラインからの絶対量での削減量に基づくクレジット。欧州ではセクトラル・クレディティング・メカニズムと呼称)、プロジェクトベース(京都議定書ベースで行われているクリーンデベロップメントメカニズム)のオフセットメカニズムが認められている。このように種々のオフセットメカニズムが用意されているのにはいくつかの理由が挙げられる。米国と均等ではない制度または同様の負担を伴わない国からのオフセットは2018年以降、20%のクレジット価値の減価を行うとしている。逆に米国と均質で同様の負担を伴う制度を有する国からのオフセットは一対一とされている。オフセットを通じて市場と市場のドッキングを誘導しようと企図していたと言ってもよい。
 価格安定化措置として、将来の排出枠へのバンキング(繰越)およびボローイング(前借り)がある。バンキングは無制限であるが、ボローイングについては一部金利付きで規定している。さらに価格が一定程度高騰した場合(3年間平均の1.6倍)、将来分の排出枠を使ったオークションが認められている。最低価格は当初28ドル(その後引き上げられる)が使用され、取引が過熱した場合の市場安定化効果が期待されている。これは「戦略備蓄排出枠」と呼ばれており、非常事態に適用されるとしている。
 米国と同様に厳しいキャップ&トレードを有している国についてはオフセットが等価で無制限に認められる。
 国際競争力維持の観点から、削減目標を持たない国から米国に輸入しようとする場合、当該輸入品にかかわるクレジットを要求することとしている。これは「国境調整条項」と呼ばれており、リーバーマン・ウォーナー法案でも盛り込まれていた考え方だ。しかし、すでにカナダなど一部近隣諸国や、インドなど主要途上国はこれに懸念を表明していた。今後法制化が再開される場合には、世界貿易機関(WTO)と法律のどちらの規制に委ねるのか、米国保護政策との批判に米国政権がどのように対処するのかという点が、大いに注目されることになろう。