オバマ政権の環境・エネルギー政策(その11)
大統領就任以前のオバマの原子力への対応
前田 一郎
環境政策アナリスト
ブルーリボンコミッションの提言
2012年1月オバマ大統領の指示により、ブルーリボンコミッションが最終報告をエネルギー省長官に提出した。ブルーリボンコミッションのメンバーは下記のとおりである。
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- リー・ハミルトン(共同議長) ウッドロー・ウィルソン国際学術研究センター所長
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- ブレント・スコウクロフト(共同議長) 前国家安全保障担当大統領補佐官
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- マーク・エアズ アメリカ労働総同盟産業別連合会会議(AFL-CIO)
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- ビッキー・ベイリー 連邦エネルギー規制委員会前委員長
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- アルバート・カーネセール カリフォルニア大学ロサンゼルス校名誉学長
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- ピート・ドメニチ 前上院議員
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- スーザン・アイゼンハワー アイゼンハワーグループ代表
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- チャック・ヘーグル 元上院議員(現国防長官)
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- ジョナサン・ラッシュ 世界資源研究所所長
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- アリソン・マクファーレン 現原子力規制委員会委員長 ジョージメイソン大学准教授
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- リチャード・メザーブ 原子力委員会元委員長
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- アーネスト・モニーツ 現エネルギー省長官 前マサチューセッツ工科大学教授
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- パー・ピーターソン カリフォルニア大学バークレー校教授
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- ジョン・ロウ エクセロン前社長
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- フィル・シャープ 未来資源研究所所長
いずれも原子力・エネルギー界では名のある専門家が指名され、注目された会議であった。その最終報告に先立ち、議会は公聴会を実施、エネルギー省に対して使用済原子燃料・廃棄物管理に関する戦略を報告書発表の半年以内に策定するように求めている。また、単にユッカマウンテンの存否を決めるだけでなくより広く米国の使用済み燃料および廃棄物に関する政策提言をすることになり、結果的にブルーリボンコミッションの提言は下記のとおりであった。
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- 将来の原子力廃棄物施設立地のための新たな合意ベースのアプローチが必要
廃棄物管理プログラムに専念し、継続するための権限と資源が付与された新たな組織の設立 - ○
- 電力会社は原子力廃棄物管理のためにファンドに資金を拠出しており、エネルギー省がこれまで管理していたが、同ファンド資金を電力会社が活用できるようにする
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- ひとつまたはそれ以上の廃棄物処分場の開発の促進
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- ひとつまたはそれ以上の中間貯蔵施設の開発の促進
- 貯蔵・処分施設が可能となった際にこれらの大規模輸送の準備
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- 原子力技術の継続的革新および労働力開発のための支援
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- 原子力安全、廃棄物管理、不拡散、安全保障上の懸念に対応するための国際的努力における米国の積極的リーダーシップ
また、ブルーリボンコミッションは、米国が再処理導入による原子燃料サイクルを閉じるべきかどうかの議論にコンセンサスに到達するのは時期尚早と結論付けている。異なる燃料サイクル技術のメリットや商業的実現可能性について不確実性が存在するからだ。これらの提言はエネルギー省に提出されたが、単に行政府によって行動が必要とされているのではなく、議会における立法化が必要となっている。
ブルーリボンコミッションの結論により、新しい原子力廃棄物に関する新たな法制を審議することになった。新たな法律にはブルーリボンコミッションのすべての提言を盛り込むか、一部の提言を盛り込むか、あるいは他のアイディアを盛り込むか、またはその食い合わせとするか、つまりブルーリボンコミッションのくびきから離れることも可能である。
ユッカマウンテンについてブルーリボンコミッションは、当初、下院はユッカマウンテンを選択肢に入れて検討することで合意し、上院のビンガマン・エネルギー天然資源委員長もユッカマウンテンの可能性も検討の俎上に載せることを提言した。一方、地元ネバダ州出身のハリー・リード民主党委員内総務がユッカマウンテンを検討のオプションから外すことを求め、結果的に上院案ではユッカマウンテンをはずすこととなった。下院の中には依然 ユッカマウンテンを選択肢に入れることにしてあるので両院の調整はされないままブルーリボンコミッションの審議に入ったといういきさつがある。
ユッカマウンテンを巡るこうした玉虫色の措置の背景には、ネバダ州選出ハリー・リード上院議員の強い影響力がある。彼は院内総務を務める民主党の重鎮である。オバマ大統領はこうした影響力のある上院議員に対して、ユッカマウンテンプロジェクト見直しを示唆していた。2010年中間選挙でリード議員は厳しい選挙が予想されていたが、接戦の末ティーパーティーの支援を受けた共和党シャロン・アングル候補に勝ち、引き続き上院への影響を与え続けることになった。しかしどちらにせよ、ブルーリボンコミッションの勧告自体には強制力はないため、結局はまた議会で審議をする運命にはあった。
共和党の中にはユッカマウンテンの復活を目指すユッカマウンテン支持派もあり、その意味ではブルーリボンコミッションの提言がすでに決定的なものとはいえなくなっているとも言える。ユッカマウンテン処分場の操業が遅れることに対し、電力各社から使用済み燃料の貯蔵費用をエネルギー省に対して請求する訴訟を起こされているという事実がある。もし建設取り消しとなれば、エネルギー省の契約不履行となり、訴訟規模が拡大し、費用請求額が全体で1000億ドルを超える可能性も取り沙汰されている。すでに1982年原子力廃棄物政策法による0.1セント/kWhの原子力廃棄物基金向けの支払いをしているのに、廃棄物処分場完成が予定より遅れていることによってサイト内貯蔵を余儀なくされているというのが電力会社側の言い分である。
新規原子力開発との関係においてはチュー前長官は、2009年1月の上院のエネルギー・天然資源委員会の指名承認公聴会での証言で、新規原子力発電所の開発と、長期的な廃棄物管理はともに進めるべきだと明言した。ユッカマウンテンに関して放射性廃棄物政策法のもとで政府の責務が問われる使用済み燃料の処分については、「エネルギー省には使用済み燃料を安全に処分するための計画を示す法的責務がある」と認め、放射性廃棄物を安全に廃棄するための長期的な計画をたてることの必要性を強調した。また、使用済み燃料の再処理に関して、チュー長官は経済性および核不拡散の観点から、現時点では再処理は「実現は可能ではない」とする一方で、再処理が使用済み燃料管理の長期的な解決策の一部となりうること、継続してエネルギー省の研究開発の重要なテーマとすべきであることを証言した。同時にその中で中間貯蔵は一定の役割を果たすことを示唆している。その背景には、オバマ政権内には使用済み燃料管理の問題によって新規原子力発電に対する障害になってはいけないとの思いがあるとみられる。