PM2.5連載企画 スペシャルインタビュー
公益社団法人大気環境学会会長/愛媛大学名誉教授・愛媛大学農学部生物資源学科大気環境科学教授 若松 伸司氏

「PM2.5問題の今」を聞く


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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北京の大気環境の状況は?

北京では今年1月10日から14日に大気汚染指数の最も悪いレベルである「重汚染」が数日連続した。特に12日夜には900μg/㎥という記録的な値となった。

――1月の北京の様子を伝えるニュース映像は衝撃的でした。

若松:濃度が上がった際には周辺はほとんど何も見えなかったと思います。濃度は500μg/㎥くらいでした。これくらいになると健康影響もありますが、例えば車の運転や外を自由に歩くこともできないでしょう。この冬アメリカ大使館では継続的に中国国内にある4か所の大使館/領事館で濃度を観測していますが、北京の濃度は一番高い時で1時間値が900μg/㎥。北京の日平均値も500~600μg/㎥以上で、非常に高いです。北から南に測定点を下げてプロットしていますが、北京など北の地域の濃度が圧倒的に高い数値です。

 北京市でのPM2.5発生源として考えられるのは、自動車、発電所やボイラー、粉じん、塗装などのVOC(揮発性有機化合物)、周辺地域からの越境汚染などがあります。特に深夜に濃度が上がり、午前0時頃にピークになっています。非常に気温が低くて零下10度くらい、かつ相対的に湿度が高い条件下で高濃度になりますが、その実態はまだ解明できていません。

図3:アメリカ大使館資料より 神田勲氏 作成

大陸からの越境移流は?

――中国からの移流はやはり気になります。日本は地域的に大陸に面している日本海側や山あいのところが影響を受けやすいのでしょうか?

若松:冬の時期の北京の高濃度が注目されていますが、日本海側でも影響はさまざまです。一つの例ですが、愛媛県でPM2.5の値を何か所かで測っています。(参照:図4)瀬戸内海と松山平野は、非常に近い場所です。もし中国の影響があるとすれば、同じように濃度が変化していいはずです。ところがよく調べますと、瀬戸内海のほうが濃度は高い。おそらくその原因は2つあり、ひとつは瀬戸内海沿岸地域の方がPM2.5の発生源が松山平野地域よりも多いことと、もうひとつは地形や気象条件の違いです。

 松山平野はどちらかといえば風の通りのいい場所に当たりますが、瀬戸内海は燧灘(ひうちなだ)という山で囲まれた海域があり、この中で空気が滞留循環することが知られています。中国から来る大気汚染物質が西日本から瀬戸内海を通る過程で、上空から瀬戸内海地域に取り込まれると、海陸風等の循環流の中に巻き込まれてしまいなかなか空気が外に逃げて行かない状態が発生すると考えられます。

図4:岡﨑友紀代氏 作成

若松:日本も広いので西から東にずっと流れていくとだんだん拡散したり、地面に沈着したりして汚染物質の濃度は減るので西の方が高いのですが、こういったローカルな場所一つ見てもその影響は一律ではなくで、地域の特徴でかなり違うということが言えます。さらに日本国内の影響やこの地域の気象条件も影響するので、おしなべて一律に影響しているというわけではありません。

 北京と愛媛県で測ったPM2.5の値でレベルはだいたい北京での濃度の10分の1くらいです。ですから、影響があると言っても中国から運ばれてくるものは、かなり薄まって日本に来ていると考えていただいて良いと思います。北京で濃度が上がった後に日本でも上がっているように見えますが、あまり明確な相関関係はありません。マスコミが大騒ぎしていますが、それほど日本にとっての影響は大きくないと言えると思います。