補論「本格稼働を始めた二国間クレジット制度」
加納 雄大
在ウィーン国際機関日本政府代表部 公使
2.日・モンゴル二国間協力の可能性について
モンゴルではJCMの下で今後どのような協力があり得るのであろうか。今後の具体的方向性を予断するものではないが、ボリューム面で重要な役割を占めるのは、ウランバートルのエネルギー供給の大半を占める、石炭火力やボイラーの効率化であろう。
写真は、ウランバートルの電力供給の柱の役割を担ってきた第4火力発電所である。同発電所の建設、リハビリには日本のODA(円借款)が関わってきた。筆者自身、円借款を担当していた2000年当時にこの発電所を訪れ、リハビリ借款の実施に関わった。
当時に比しても、ウランバートルの人口増、都市化は進んでおり、モンゴルの全人口の約半分が首都に集中している。それに伴い電力需要も伸びており、火力発電所の既存設備のリハビリや新・増設のニーズは強い。また学校や病院における石炭ボイラーは旧式のものが多い。石炭火力発電所やボイラーの効率化を進めることは、CO2排出削減のみならず、大気汚染緩和の健康対策にもなる。こうした動きに日本の官民が連携して関与していくべきだろう。
3.国毎に異なり得る二国間クレジット制度の協力分野
如何なる分野がJCMの対象となり得るかは、国によって異なる。
3月19日には、第2号として、バングラデシュ政府との間で二国間文書の署名がなされた。バングラデシュのエネルギー供給の大半は天然ガスであり、その利用の効率化が目下の課題である。エネルギー需要増大に対応するため、高効率の石炭火力にも関心があるようである。モンゴルとは対照的にバングラデシュは人口が多く、国土面積は狭いため、都市化に対応した公共交通システムや廃棄物処理案件のニーズも高いといえる。
このほか、カンボジアなら熱帯雨林保全、インドネシアなら地熱発電など、各国の事情によって想定される協力分野は異なってくる。いずれにせよ、具体的な対象分野、案件は双方の政策協議を通じて具体化することになる。多様な分野でJCMが援助機関やJBIC、民間セクター、NGO等と連携しながら、低炭素発展の流れを後押しする事が期待される。
(おわり)
*このたび、「環境外交:気候変動交渉とグローバル・ガバナンス」が 信山社より出版されることになりました。近年の気候変動交渉を紹介してきた本コーナーでの連載をもとに一部加筆を行い、交渉現場の雰囲気を伝える写真・コラムや、コペンハーゲン合意などの資料も追加しています。ご関心のある方は是非ご一読ください。