容量市場設立に関わる技術的課題(続)


Policy study group for electric power industry reform

印刷用ページ

3.「予備率」と「設備率」

 予備率は発電設備量と需要の大きさの関係を示す尺度であるが、定義によりいくつかの指標がある。また、設備計画の段階と需給運用の段階では、利用目的や考慮している時間軸が異なるため、その概念も異なったものとなる。このため一口で小売事業者に「予備力確保義務」を課すと言っても、日本の実情にあわせて定義を整理しておく必要がある。
 まず図4に長期需給計画(電源設備計画)時の設備余力の概念を例示した(以下では夏期に最大電力が発生するケースを想定)。長期需給計画の主な目的はどれだけの電源を開発すれば良いかを決めることであるから、問題となるのは需要に対する設備量のレベルである。その指標として、最大需要に対する設備量の比である「設備率」がある。
 また、発電所の所内消費電力を差し引いた供給能力から、さらに季節によって認可最大出力で発電できない出力減分注3)を控除した設備夏期供給力の最大需要に対する比である「実効設備率」を、需要に対する設備レベルを表す指標とすることがある。PJMではこれをInstalled Capacityと称し、その最大需要に対する余力の比率を設備余力(Installed Capacity Margin)と定義している。

図4. 長期需給計画時(電源設備計画)時の設備余力(Installed Capacity Margin)

 また、わが国では原子力発電などについて、一定のインターバルで検査を行うことが法定されているため、需要の高い夏期でも補修のための停止(計画停止)が行われる。設備夏期供給力から補修停止分の供給力を差し引いた供給能力が最大需要を上回る量の比率が、いわゆる「供給予備率」である。
 需給運用上はこの供給予備率を考える必要があるが、設備を計画する上で実務家が意識するのは、「供給予備率」(運用上の補修計画に依存する)よりもむしろ設備量の指標である「実効設備率」となっている場合がある米国では電源補修のインターバルが法定されておらず、原則として夏期に補修停止が実施されることはなくPJMなどの系統運用者は夏期補修を禁止しているので、実効設備率と供給予備率は等価(最大需要分の100%を引くかどうかの差だけ)である。
 さて、設備計画の段階が終わり、実運用年に入った後の予備率の概念を図5に示す。年間、月間の需給計画では最大3日平均需要に対して必要な予備率が確保されるように需給計画を策定する(図5左)。日常的な運用に入ると当日の最大需要に対して少なくとも3~5%の運転予備力(ホットリザーブ)を用意して当日の需給変動に対応している(電力系統利用協議会ルール)が、前日時点では需要想定誤差が最大5%程度と大きいので前日段階の想定需要に対して合計で8%程度の予備力確保が必要となるとされている。需給がタイトになると見込まれる場合は、図5の右図にある通り、待機予備状態の電源に前日夕刻以降に起動を指令することで、これを当日の運転予備力に組み入れることも可能になる。

図5. 需給運用上の予備率(Operating Reserve Margin)
注3)
例えばガスタービンは外気温が高い夏期には出力が低下するし、一般水力は豊水でなければ出力が低下する。