容量市場設立に関わる技術的課題(続)


Policy study group for electric power industry reform

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2.需要想定の乖離分をどう埋めるか

 ネットワーク部門(広域機関およびエリアの系統運用者)は図2のフローで需要想定を行うことに加えて、小売事業者の供給計画(需要想定とそれに対する電源確保計画)と発電事業者の電源計画を集約して、全体の需給状況を想定する役割を負う。簡単のために単一地域しかない電力市場に小売事業者A、B(それぞれ発電ライセンスも保有)と発電事業者Cのみが存在している場合を想定し(表1)、必要予備力を10%と仮定する。X年後の小売事業者A、Bのそれぞれの最大需要想定が700万kW、200万kWだったとして、小売事業者は予備力を含めたA:770万kW,B:220万kW(合計990万kW)の発電設備を確保しなければならないだろう。表1の例では小売事業者Aは自社発電所により、小売事業者Bは自社発電所に加えて発電事業者Cの供給力も調達して予備率10%を確保している。他方、ネットワーク部門による全体の需要想定が950万kWだったとすると、適正予備率維持のためにX年後に必要となる発電設備は1,045万kWであり、事業者A~Cの発電設備計画を加えた990万kWでは55万kWが不足している。

表1 単一地域の電力市場におけるX年後の需要想定例

 この場合にネットワーク部門のとりうる手段はいくつか考えられる。

将来の需給見通し・予備率を公表して、予備率不足の場合は電源建設を促す。
小売事業者が不足容量を調達するための容量市場を運営。系統全体での予備力不足時には予備力確保義務未達の事業者のペナルティ額を増加させるなどにより(結果として容量市場価格が上昇)、電源建設を促す。
ネットワーク部門が小売事業者に代わって不足分の供給力(X年後の55万kW)の容量クレジットを先渡容量市場で一旦調達する。

 予備力確保義務や容量市場のない地域では①と卸電力市場の価格メカニズムのみで対処していることになるが、その多くで予備率低下の傾向にあり容量市場設立に向けて動き出していることは、すでにこのシリーズで紹介してきた通りである。
 容量市場を設立する場合、容量市場の買い手によって②と③(あるいはその併用)の方法があり得る。米国のPJMではかつて②の方法を採用しており、地域全体での必要予備力が不足する際に、予備力不足の小売事業者に対するペナルティを倍にする措置をとっていたが、容量市場価格が乱高下するだけで電源建設のインセンティブとなっていないとの批判があり、現在は③のやり方に移行している。
 ③の場合、ネットワーク部門が最初の先渡容量市場で容量55万kWを確保し、その後に実施する2次的な容量市場で小売事業者に確保したクレジットを売りに出すような仕組みも整備すれば、販売計画を上積みした小売事業者が当該年度に入るまで順次必要容量を調達していくことができる(図3)。仮にネットワーク部門の容量クレジットが売れ残った場合、ネットワーク部門による最終保障義務の充足に当てることができるから、小売事業者に予備力確保義務を課しつつ、小売事業者と契約できなかった需要家に対してネットワーク部門が最終保障(ラストリゾート供給)を負うことに決めたこととも整合的ではないかと思われる注2)

図3.容量確保の時間軸イメージ

 上記では需給ギャップを埋めるために、ネットワーク部門が電源建設を促す方策のみを説明したが、これ以外にも経年発電設備の廃止繰り延べ、デマンドレスポンスなどの対策が考えられるので、これらの対策も総合的に判断するために、新設電源のみならずこれらも同様に容量市場で取り扱えるようにする必要がある。
 また、ネットワーク部門の長期需要想定に誤差が含まれることや、日本の場合のように多地域と連系線からなる市場を考える場合の留意点(広域機関とエリアの系統運用者の役割分担)は前回もふれた通りである。

注2)
電気事業法の解説によると、最終保障義務は余力の範囲で果たされるものであり、そのためにあらかじめ供給力を確保しておく必要はないとされている。