容量市場設立に関わる技術的課題(続)


Policy study group for electric power industry reform

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 小売事業者に予備力確保義務を課す場合、まず設備計画時の設備量と実運用時の運転予備力のどちらに義務を課すのか(あるいは両方に課すのか)整理する必要がある。予備力確保義務によって将来的に必要な発電設備が作られることを促し、また小売事業者が確保した発電設備の過不足分を容量クレジットとして先渡市場(容量市場)などでやり取りできるようにする上では、設備量に対して一定の義務を課すことが必要ではないか(米国の容量市場や英国で検討中の容量市場も同様)。一方、図5に示した運転予備力や待機予備力など運用時の予備力については、今後は保有状態を広域機関が管理することとされているが、設備量に対する議論とは別に、確保すべき必要量や確保できなかった場合に広域機関が取るアクションやルールを定める必要がある。
 さらに、わが国では米国とは異なり夏期補修を考慮することが不可欠である。例えば、原子力発電の場合、補修計画は時期によらず一定のインターバルで組まれるため、利用率85%の原子力発電設備であれば、年間を通じてどの時期にも15%の確率で補修が行われている。これは夏期でも事情は同じだから、供給力としての評価を認可最大出力×85%とすることが考えられる。これは夏期補修を行う火力や水力についても同様である。
 以上の議論をまとめると、一つのやり方としてシステム全体で保有すべき設備夏期供給力

  (システム全体で保有すべきICAP)=(最大需要)×(実効設備率)

をもとに、システム全体の電源の平均補修率で補正した

  (補修率補正後ICAP)=(最大需要)×(実効設備率)×(1-平均補修率)

を、各小売事業者の最大需要に対する寄与分に応じて義務量として以下のように配分することが考えられる。

  (ICAP義務量)=(最大需要に対する当該小売事業者供給先の寄与分)
           ×(実効設備率)×(1-平均補修率)

また、義務履行の際の個別電源毎の設備容量は、当該電源の夏期補修率を考慮して

  (電源の設備容量)=(認可最大出力)×(1-当該電源の夏期補修率)

と評価すればよい。さらに電源毎の計画外停止率の考慮するために、前回説明した通りの補正を行うことになる。

4.大規模なリスクへの対応

 日本では適正予備力は8~10%とされているが、中越沖地震・東日本大震災後や原子力発電が再稼働できない故に生じた需給逼迫時などには、経年発電所の廃止を決めるまでの間に経営判断により長期停止状態(ただし供給計画の供給力には織り込まない)としていた電源を再稼働して対応してきた。実態としては適正予備力の外枠で第2予備力とでもいうものが存在していることで、結果として大規模停電が防がれていたと言える。
 仮に大規模リスクへの対応のための第2予備力を、小売事業者に課す予備力確保義務の枠外におくならば、発電事業者がこれらの経年火力機を維持しつづけることは困難となり、設備は廃止されてしまう可能性がある。
 予備力確保義務の議論では、これらの大規模リスクの扱いやそのための予備力を確保する場合の適切な費用負担についても議論を進めることが必要だ。その際には、スマートメーターを活用した需要側での方策についても考えていく必要があるのではないか。需要側のスマート化による対応については稿を改めて紹介したい。

<参考文献> 
[1] 経済産業省 電力システム改革専門委員会 第4回 参考資料1-2 (事務局提出資料)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/004_s01_02e.pdf

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