第12回(最終回)セメント協会生産・環境幹事会幹事長/住友大阪セメント株式会社取締役・専務執行役員 中尾 正文氏

循環型社会への貢献、省エネ技術への挑戦


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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――セメント業界が引き取ってくれないと、廃棄物は埋め立てるか焼却しなくてはなりませんね。

中尾:セメントは簡単に言うと、セメントクリンカと石こうを混ぜて細かく粉砕して製造されます。セメントクリンカを構成している主な成分は酸化カルシウム(CaO)、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化第二鉄(Fe2O3)が挙げられます。以前は、セメントクリンカの原料は主に天然資源を採掘して使用していましたが、現在はできるだけ廃棄物を利用する為に、4成分を分析し廃棄物をうまく組み合わせてセメントクリンカを作っています。

出典:セメント協会

――新たに資源を採掘するというより、あるものを上手に利用しながらやっていくのですね。

中尾:はい、セメント中の酸化カルシウムを全量置き換える廃棄物は今のところありませんので、それだけは石灰石を採掘していますが、それ以外はほとんど全て産業廃棄物か、産業界から出る副産物と言われるものを利用しています。

震災廃棄物の放射能問題への対応

――震災後、セメント業界が震災がれきを受け入れることについて、地元住民が反対する等の報道がありました。地元の理解を取り付けるのは大変でしたか?

中尾:一番大きい問題はやはり放射能の問題だと思います。一昨年5月1日のNHKのニュース番組で、福島県が放射能が含まれた下水汚泥を県外のセメント工場に処理してもらっているという報道がありました。私もちょうどその番組を見ていて、福島県からの事前説明はありませんでしたが、当社ではないかということで、報道後はその対応に追われました。

 とにかく栃木工場の出荷を全部停止し、生産も止めるよう指示を出して、翌日には経産省に「どう対処すべきなのか」を伺いました。それから何回か足を運んで打合せしましたが、経産省から回答が出たのが5月13日のことです。放射性物質濃度の安全基準を設定することに時間がかかりましたが、最終的にはクリアランスレベルを100ベクレル以下にすることが決まり、これに基づき、お客様に理解を求めました。

 しかし今でも、下水汚泥がコンクリートの中に混ぜられて、臭いがするのではないかと誤解されることがあります。一般の方にセメントとコンクリートの違いがよく理解されていないこともあると思います。セメントは、原料を粉砕し調合して、先ほど述べたクリンカを焼成し、石こうを加えて細かく砕いたものです。そのセメントに水や砂利、混和剤を混ぜ合わせてコンクリートにします。ですから、下水汚泥はセメントクリンカの原料として利用していますが、コンクリートに直接混ぜるわけではありません。

――事実関係を住民の方や自治体にきちんと説明する努力が必要とされますね。

中尾:「これはクリアランスベクレル以下にして我々は使用する」といった話を必ずしまして、製品についても放射性物質の含有量をHPに定期的に載せています。今回の震災に限らず、廃棄物の処理をする場合には、定期的に近隣の人には見学していただき、データは基本的にオープンに出しています。自治体と住民と我々と三者で会議を定期的に持つなど、理解につなげる努力をしています。

――震災廃棄物もできるだけ受け入れ、復興に貢献していますね。

中尾:震災廃棄物は、東北にあるセメント工場は積極的に処理を手伝っております。具体的には太平洋セメントの大船渡工場、三菱マテリアルの岩手工場・青森工場でも受け入れています。関東では太平洋セメントの熊谷工場、三菱マテリアルの横瀬工場などで受け入れていましたが、やはり東北から離れると住民の方への説明が難しくなってしまいます。

 我々の関連会社の八戸セメントでも処理を行っていますが、東北の場合は被災地でもあり、八戸市も震災により廃棄物がたくさん出ました。そのため八戸市が積極的に協力されて、ずいぶん早くから対応することができました。